堺市長選の構図
24日に投開票される堺市長選は、大阪維新の会の新顔候補と自民や民進などが相乗りで推す現職市長が対決する。ただ、過去2度の堺市長選に深く関わった橋下徹・前大阪市長は政界を退き、一切姿を見せない。「選挙の顔」の不在は両陣営にどんな影響を及ぼしているのか。
「改革で皆さまの負担を減らす。これは橋下、吉村(洋文・大阪市長)で、大阪市で実現できている」
15日夕、維新新顔の永藤英機氏(41)の応援演説をした維新代表の松井一郎・大阪府知事は、橋下氏からの維新政治で行政改革を進めてきたと力を込めた。
ただ、肝心の橋下氏の姿は、そこにはなかった。
前維新代表の橋下氏は、2015年5月に実施された大阪市での大阪都構想の住民投票で敗れ、同じ年の12月に市長退任とともに政界を退いた。
その後、党の「法律政策顧問」として幹部会合のみ出席していたが、出演するテレビ番組の「政治的中立」への配慮で今年5月に政策顧問を退任。幹部会合にも出席していない。
さらに、橋下氏の意向で、維新は橋下氏の写真や動画を党の活動に使うことを禁止し、所属議員に誓約書も書かせている。
今年8月、維新所属の衆院議員のパーティーで講演した際も、橋下氏は堺市長選の立候補予定者とは同席せず、市長選に言及することもなかった。10月22日の投開票の公算が大きくなった衆院選でも、「今は一般人。選挙には関与しない」(松井氏)という。
堺市長選は、橋下氏にとって深い因縁がある。
大阪府知事時代の09年の選挙では、大阪府の部長だった竹山修身氏(67)をかついで当時の現職を破り、初当選を勝ち取った。
その後、橋下氏が進める都構想をめぐって竹山氏と対立し、13年の前回選挙では都構想に反対する竹山氏に維新新顔が敗れた。橋下氏の大阪での「不敗神話」が崩れた選挙だった。
維新にとって今回の堺市長選は、来年秋の実施をめざす大阪市での都構想再挑戦に向けて、負けられない戦いだ。ただ、これまでのように「橋下人気」で人を集める街頭演説はできない。
今回は維新所属の国会議員や地方議員ら200人近くをブロックごとに分け、徹底した「地上戦」を実施。幹部は「前回は橋下人気に頼ったが、今回は地をはうような選挙」と語る。また、幹部らが演説で橋下氏の名前を出し、党の創設者としての「残像」をさりげなくアピールする。
発信力の低下に頭を悩ませるが、橋下氏の不在はメリットもあるという。ときに強引な手法で賛否が分かれた橋下氏。所属議員の一人は「今回は逆に維新への強い拒否感を持つ有権者が減った」とも感じる。松井氏は橋下氏不在について、「(維新の)全員が選挙にコミットしないといけない」と語る。
一方の竹山氏陣営。
「もうカリスマのリーダーは要らんのですよ」
7日に堺市であった公開討論会で、竹山氏は橋下氏を意識して訴えた。
竹山氏は前回、橋下氏の掲げる都構想批判を押し出し、支持を広げた。永藤氏は都構想を公約にしていないが、竹山氏は引き続き「反都構想」を主張し、橋下氏や維新への批判票を集めたい考えだ。
陣営には、橋下氏の不在で維新の求心力の低下を期待する声がある。陣営幹部の一人は、維新が前回と違って無党派層への浸透ができず、組織力が強い方が有利に働くとみる。「(前回と違って)投票率は上がらないし、維新は手が詰まっているのだろう」
ただ、大阪での橋下氏の人気は今も一定数あるとみる。陣営は「維新は戦略として橋下さんの存在をにおわせている」と警戒し、別の幹部もこう語る。
「維新のイメージはまだ橋下氏で、我々はまだ橋下氏と戦っている」