政治家たちは事実に即して語っているのか。「内容は本当か」「ミスリードかもしれない」。衆院選の論戦を通し、朝日新聞は政治家の発言を「ファクトチェック」します。
【特集】ファクトチェック
特集:2017衆院選
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■安倍晋三首相
自民党の安倍晋三総裁
(獣医学部新設に関係する国家戦略特区を議論する)ワーキンググループなどのプロセスはすべて公開されていますから。(9日、TBSのニュース番組で)
→×(間違い)
首相の長年の友人である加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題などが、番組で議論された際の発言だ。
首相は、学部新設に道を開いた国家戦略特区ワーキンググループ(WG)の議論について「プロセスはすべて公開されている」と説明した。WGは内閣府に設けられ、国家戦略特区での規制緩和の進め方を話し合ったり、提案者から聞き取りをしたりする組織だ。
首相の発言通り、プロセスはすべて公開されたのか。
2015年6月5日、愛媛県と今治市の担当者が出席した非公開のWG会合が開かれ、加計学園の関係者3人も出席し、発言した。内閣府が他の会合と同様、終了後に議事要旨を作成。今年3月にホームページで公表したが、学園関係者の出席については触れなかった。
8月、朝日新聞が学園関係者が出席・発言していたと報じると、WGの八田達夫座長はコメントを発表。学園関係者は「説明補助者」だと位置づけ、「通常、説明補助者は参加者と扱っていない」として、発言は「非公式な補足発言」だったため公表しなかったとの見解を示した。
また、議事要旨と別に作られる議事録は、内閣府が8月25日に公開。通常はWG会合開催から4年後に公開されるものを「特例」扱いで明らかにしたが、ここでも加計学園の出席については触れていなかった。
長年今治市での獣医学部新設を目指してきた加計学園関係者が出席・発言したWG会合で、そのことが記載されていない点で、首相の言う「すべて公開されている」というのは誤りだ。(岡崎明子)
■枝野幸男・立憲民主党代表(元民主党幹事長)
立憲民主党の枝野幸男代表=飯塚晋一撮影
民主党政権3年3カ月のトータルと安倍政権発足後をトータルしたときは、実は民主党政権の方が実質経済成長率は高かったという話を、一貫して僕は申し上げている。(9日、TBSのニュース番組で)
→○(正しい)
選挙では、どの政党も自らに有利な経済統計を使いがちだ。経済成長率を「実質」で捉えるか、「名目」で捉えるか。今回のケースもそのひとつと言えそうだ。成長率の場合、物価変動の影響を除いたものが「実質」、含むものが「名目」。物価が上がるインフレだと名目が高くなり、下がるデフレでは実質が高くなる。
民主党が政権の座にあったのは2009年9月~12年12月。その間の国内総生産(GDP)の実質成長率(ニッセイ基礎研究所調べ)は年平均で1・6%。第2次安倍政権発足後から今までの成長率(同)の年平均は、1・4%だ。枝野氏が言う「民主党政権の方が実質成長率は高かった」は、数値自体は正しい。
GDP成長率の推移
ただ当時の成長率の平均を引き上げているのは、10年度の3・2%という高い成長だ。これは08年に「100年に1度の経済危機」とも言われたリーマン・ショックが起きたことが影響している。08、09両年度が大幅なマイナス成長だった反動増で、日本経済の実力以上に高い値となったという面は否めない。また、民主党政権当時の成長率で、実質が名目を上回っているのは、デフレが背景にあるとも言え、経済状況が良かったとは言い難い。
実際、安倍晋三首相は同じ番組で「デフレ自慢をしているようなものだ」と枝野氏の発言に皮肉を言った。そのうえで、「安倍政権になって名目成長率が高くて、その下に実質成長率がある。ここが一番大事だ」と指摘し、「名目」を重視する姿勢を示した。
一方、内閣府のホームページでは、「経済成長率を見るときは、実質値で見ることが多い」と記されている。(松浦祐子)
■希望の党の小池百合子代表(東京都知事)
希望の党の小池百合子代表
私、東京都知事といたしまして今、47都道府県のなかでも、もっともお買い得な都知事となっている。一番報酬的にはお安くなっておりまして、2番目にお安いのがこちら(日本維新の会代表の)大阪府知事、松井一郎さん。(7日、街頭演説で)
→△(説明不足)
選挙では、各党が看板政策をあの手この手でアピールする。
希望の党は「身を切る改革」として、議員定数や議員報酬の削減を訴える。東京都知事の小池百合子代表は、街頭演説などで自身の報酬の「安さ」をアピール。同時に、衆院選で連携する日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)について、「(全国の知事の中で)2番目に安い」と複数回紹介している。
両氏が自身の報酬を減らしているのは事実だ。小池氏は昨年7月の知事選で報酬半減を掲げ、条例で定められた年収は、期末手当含めて総額1401万9096円。松井氏も削減しており、年収は1768万3680円となっている。
ただ、山形県の吉村美栄子知事も低報酬で知られる。同県は2006年以降、知事の給与削減を続けており、吉村氏の年収は1649万4810円。3人の年収を比べると、安い順に小池氏、吉村氏、松井氏となり、少なくとも全国で2番目に安い、とは言えなくなる。
3都府県知事の年収
一方、知事の任期を終えた際の退職手当は、大阪府と山形県は支給されない。東京都は任期ごとに退職手当があり、小池氏が知事を4年間務めた場合、3634万1760円が支給される。この退職手当を含めた「知事の任期4年間の報酬総額」で言うと、3人の中では安い順に吉村氏、松井氏、小池氏となる。
松井氏は9月27日、記者団に「小池知事も今、給料は日本で一番安くて、僕が2番目に安い」としていたが、10月12日の街頭演説では「4年間の報酬総額で言うと、僕は退職金もゼロにしてますから、(小池氏より)僕の方がちょっと下だけど、給料は小池さんの方がちょっと下という形です」と述べた。(鬼原民幸、矢吹孝文)