イラク北部の自治政府「クルディスタン地域政府」(KRG)が実効支配していた北部キルクーク州にイラク軍が進軍し、緊張が高まっている問題で、米国のトランプ大統領は16日、イラク政府とKRGの間で「どちらの立場にも立たないが、衝突のある状況は気に入らない」と述べ、双方に自制を求める考えを示した。
過激派組織「イスラム国」(IS)に対する有志連合を主導する米政府は、少数民族クルド人主体のKRGの部隊とイラク政府双方と連携し、拠点の奪還を進めてきた。イラク国内で宗派や民族間の対立が強まれば、再びISにつけいる余地を与えかねないと懸念を深めている。
イラク軍は15日深夜にキルクーク州南部と西部から進軍を開始。16日朝、州都キルクーク市周辺にある油田や軍事基地、発電所など重要拠点・施設を次々に制圧したほか、同日午後には精鋭の対テロ部隊などが市中心部の州知事庁舎などを掌握。作戦開始から1日足らずで広い範囲を支配下に置いた。
AFP通信によると、KRGの保健当局は、一連の戦闘でKRGの軍事組織「ペシュメルガ」の隊員10人が死亡、27人がけがをしたことを明らかにした。一方、クルド系メディアによると、イラク軍側でも民兵15人が死亡。キルクーク市では、衝突の拡大を恐れてクルド系の市民ら数千人がKRGの他地域へ避難したという。
ただ、ペシュメルガは多くの拠点でほとんど抵抗せずに撤退したとみられる。大規模な衝突を避けるため、KRGの一部勢力とイラク軍との間で、事前に交渉がもたれた可能性が伝えられている。(ドバイ=渡辺淳基)