安倍晋三首相(自民党総裁)は31日、憲法改正の旗振り役となる自民党憲法改正推進本部長に、細田博之・前総務会長を充てることを決めた。首相に近く、幹事長などを経験した重鎮を据えることで、党内の改憲議論を首相主導で進める狙いがあるとみられる。
首相は衆院選大勝を受けて改憲議論を加速させる考えで、衆院選を機に引退した保岡興治氏の後任の本部長人事が注目されていた。
首相官邸は、首相が憲法9条改正の懐刀と考える高村正彦副総裁を充てることも一時検討。だが、議員を引退した高村氏の起用に対しては「国会議員の方がふさわしい」(党幹部)との声が上がり、最終的に細田氏に落ち着いた。
首相の出身派閥である細田派領袖(りょうしゅう)の起用に、党内には「首相は自分の言うことを聞く人が良かったんだろう」(閣僚経験者)との見方が広がる。一方、公明党幹部は「首相主導で憲法が動くのは間違いない。うちは非常に苦しい。慎重な姿勢をきちんと発信しないといけない」と警戒する。
細田氏の当面の役割は、衆院選で自民党が示した「自衛隊明記」など改憲4項目を具体化し、党内をまとめることだ。
首相が5月に示した自衛隊明記案には党内に強い異論もある。9条の1項、2項を残したまま自衛隊を明記する首相案は、戦力の不保持と交戦権の否認をうたった2項の全面書き換えなどを掲げた2012年の党改憲草案との違いが大きいためだ。
首相の3選がかかる来秋の党総裁選に立候補の意欲を示す石破茂・元幹事長は「自民党の党議決定は草案だ」と語る。石破氏以外にも12年草案へのこだわりは党内で根強く、党関係者は「石破氏が言うことは正論。正論を抑えるには自らに近い重鎮を充てるしかなかった」とみる。(岩尾真宏)