病室でピースサインをする白木優希ちゃん(遺族提供)
心臓移植を待っていた娘。その肺と肝臓と腎臓は、今もだれかの体の中で生き続けている。
突然重い心臓病を患い、2015年1月に脳死判定された白木優希ちゃん(当時4)と、臓器提供を決断した父・大輔さん(37)と母・希佳(きか)さん(41)。家族の100日の闘いの軌跡をたどる。
10年5月、優希ちゃんを産んだ瞬間、希佳さんは誓った。「一生、ママが守っていくから。幸せにするから」。夫婦にとって初めての子ども。優希ちゃんは優しく賢い子に育ち、大きな病気もせず毎日元気に幼稚園に通っていた。
異変が起きたのは14年10月。嘔吐(おうと)や顔のむくみが数日続いた。風邪かと思い、岐阜市内のかかりつけ医に連れていくと、市民病院に行くように言われた。市民病院では「県立病院に」。検査を終えた医師は、夫婦にこう告げた。
「特発性拡張型心筋症です。今晩が山場かもしれません」
聞いたこともない病名を突然告げられ、明日には亡くなるかもしれないなんて――。現実のこととは思えず、次から次へと涙があふれてきた。少し落ち着くと、2人で必死にスマートフォンで病気について調べた。心筋の異常で全身に必要な量の血液を送り出すことができなくなる、原因不明の病気。助かる道は心臓移植しかなかった。
なんとか持ちこたえたものの、心臓の機能を示す数値は日に日に悪くなっていった。移植の可能性も念頭に、救急ヘリで大阪大学付属病院に転院した。当時1歳だった次女を実家に預け、夫婦は大阪の短期滞在型マンションに入った。
転院後も病状は一進一退が続いた。ある日、夫婦とも岐阜に戻っていたとき、希佳さんの携帯に病院から電話が入った。
「いま心臓の循環を補助する装置をつけないと、間に合わないかもしれません」
急いで病院に戻ると、たくさんのチューブと大きな装置につながれた優希ちゃんが手術室から出てきた。人工呼吸器もつけていた。
そのとき装着していたのは弱った心臓の機能を補う「補助循環装置」。ただ、ポンプ内には血栓(血の塊)ができやすく、血栓が脳に達すると脳梗塞(こうそく)を起こすリスクが高い。あくまで「つなぎ」の装置であり、海外なら、血栓ができにくい小児用の「補助人工心臓」をつける状況だった。
しかし当時、国内で認可されていた補助人工心臓は大人用のみ。小児用は、安全性や効果を確認するための「治験」の段階だった。
心臓移植希望者として日本臓器移植ネットワークに登録していれば、治験段階でも補助人工心臓を装着できる可能性があった。しかし、突然病魔に襲われた優希ちゃんは登録手続き中だった。
「なぜ、子ども用の補助人工心臓が使えないのですか?」
夫婦は懸命に医師に訴えたが、治験のルール上、装着はかなわなかった。
「最善のものが近くにあるのに制度のせいで使えない。何に怒りをぶつけていいのか、わからない状態だった」。大輔さんは当時の心境を振り返る。
人工呼吸器で話すことができな…