ロシア・ソチ市内の小中高一貫校を訪れた長野市立裾花中の生徒2人と立石勝利教諭(前列中)ら(立石教諭提供)
平昌(ピョンチャン)冬季五輪(韓国)が開かれる来年2月は、1998年長野五輪から20年という節目。長野五輪をきっかけにした無形のレガシー(遺産)は今も残っている。
「安心」をおもてなし、日本人向き?
「水は買えますか」「両替をしたいのですが」
英語で通訳しながら、そんな要望の手助けをする。主に成田空港で外国人の送迎のボランティア活動をするNPO法人成田空港ボランティア・スカイレッツのメンバーたちだ。この夏には、カザフスタンや中国などから来た東京外大への短期留学生18人を、空港発のリムジンバスに乗せるまでの支援活動をした。
「(東京外大府中キャンパス方面に行くために乗る)調布行きのリムジンバスは駅の南口に止まる。大学行きの私鉄バスに乗り換えるが、北口から出るので、『駅の反対側に行ってください』と案内します」。メンバーの南武美さん(80)がツボを説明した。
スカイレッツは長野五輪前に、千葉県在住の同五輪ボランティア登録者が結成した。97年の五輪プレ大会を皮切りに、2001年の秋田ワールドゲームズ、09年のアジアユースパラ大会などのスポーツイベントや国際会議で、選手・役員の出入国時のサポートをしてきた。今は留学生支援のほか、文化イベントでも主催者から声がかかる。
メンバーは50、60代を中心に約80人。電車のチケット購入をサポートしたり、トイレに行く間の荷物番をしたり。「初めての土地に来た人に安心感を届けられるのがうれしい」と会長の荒井洋子さん(74)は言う。
五輪を機に息長く続くレガシーだ。「うろうろしている人がいたら、声をかけたくなるのが日本人の親切さ。こうした活動に慣れていないだけで、本来は日本人に合っているのでは」と理事長の小野寺かをりさん(68)は話す。20年東京五輪での活動も見据える。
学校ぐるみ 2020東京も
長野市の学校でも、無形のレガシーがある。
先月下旬、裾花中の生徒2人がロシア・ソチの小中高一貫校「ソチ第15学校」を訪れ、日本の文化を学ぶ子どもたちと交流を深めた。同校は14年ソチ五輪に合わせて行われた「一校一国運動」で日本を応援。昨年はソチから生徒2人が裾花中を訪れ、今回はそのお返しに訪問した。引率した立石勝利教諭は「世界に目を向け、平和や文化を考えるきっかけになってくれれば」と目を細める。
この運動は長野五輪の2年前から始まった。異文化を学べるなどの学習効果が評価され、その後の五輪でも活動は引き継がれた。平昌五輪が開かれる韓国・江原道では今年9月から約40の小中高校が取り組む。20年東京五輪に向けては、一つの学校が五つの国・地域を学ぶ「世界ともだちプロジェクト」を東京都教育委員会が昨年から始めた。
一校一国運動を提唱した長野国際親善クラブの会長だった小出博治さん(89)は「こんなに長く続くとは思っていなかった」と振り返る。ただ、長野五輪当時は長野市内75の公立校が参加したが、市教委によると昨年度は8校。市の補助事業として支援するものの後継者が育たず、担当教諭の異動などで活動が途絶え、続ける学校は減っている。
筑波大の真田久教授(五輪史)は「一校一国運動は子どもたちに特化した無形のレガシー。長野は発祥の地なので、原点が見られるよう残してほしい」と話す。(中小路徹、笠井正基)