地震発生の緊急放送で頭を守る姿勢をとる参加者=鈴鹿市飯野寺家町
音楽会や観劇の最中に地震が起きたらどうしますか――。三重県鈴鹿市飯野寺家町の市文化会館で16日、「避難訓練コンサート」があり、不特定多数の人が集まる会場からの脱出を約300人が体験した。市消防本部が発案した「平泳ぎ避難」を初めて一般市民と試し、非常口への殺到をどれだけ防げるかの検証もした。
市などの主催で、事前に申し込んだ観客は訓練とは知っているが、いつ始まり、どう行動すべきかは全く知らされていない。全日本吹奏楽コンクールの全国大会にも出場した白子ウインドシンフォニカが、舞台での演奏を務めた。
コンサートが始まって20分余りが過ぎた時、震度7の地震が起きたとの想定で警報が会場に鳴り響き、係員の指示で参加者は客席で頭を守る姿勢をとった。続いて、4カ所の非常口を出て隣の公園への避難を開始したが、その際、1カ所の非常口では、私服で会場にいた消防本部職員らが「平泳ぎのように手を動かして逃げてください」などと誘導した。
「平泳ぎ避難」は、狭い入り口に人が殺到してけがをしないようにする方策。「渋滞学」で知られる東大先端科学技術研究センターの西成活裕教授による11月下旬の講演で、学問的に「1平方メートルの空間に人が1・8人以上入ると混雑する」と学んだ職員が、平泳ぎのように手を動かすと前の人と自分の間に空間ができ、危険な接触を避けられるのではと考えたという。
消防署内で実験したところ効果がみられ、今回、初めて一般の人に突然の指示でもできるかどうかを試した。指示を聞いて手を動かした人から「実際の避難でも効果があると思う」と前向きな感想もあったが、「『平泳ぎ』という言葉だけが聞こえ、よく分からないうちに外に出てしまった」と話す人もいた。
消防本部は今後、「平泳ぎ避難」をした非常口と、しなかった非常口の違いをビデオ映像などで分析する。中西貞徳消防長は「これからも検証を重ねていきたい」と話し、効果がはっきりすれば、広く世間に紹介したいという。(中根勉)