試合終了間際、決勝となるゴールを決めスタンドに向かって走る前橋育英の榎本(右)=長島一浩撮影
(8日、全国校サッカー決勝 前橋育英1―0流通経大柏)
前橋育英、流通経大柏を下し初優勝 全国高校サッカー
すでに残り時間はなくなり、「3分」の追加時間が示された直後だった。
前橋育英の田部井涼がゴール前に浮き球を送る。榎本が頭でつなぎ、飯島がDFの背後に潜り込む。拾って反転しながらシュート。DFが跳ね返したボールを榎本が右足でねじ込んだ。身も心もぼろぼろになる大敗から積み上げた1年の時間が報われた瞬間だった。
相手は得点源の飯島にマンマークを用意した。守備に重きを置いた露骨な変化に、山田監督は「相手が怖がっている。自信を持ってやれ」と選手を送り出している。
「一度横パスを入れて、ボールを落ち着かせられたことが、最後の決勝点につながった」と主将の田部井涼はいった。縦に急ぐ相手に合わせず、本来のパスワークを貫いた。ボールを広く動かし続けたことが、ボディーブローのように流通経大柏の体力と気力を奪っていた。
1年前の同じ決勝で、2年生中心のチームは青森山田に0―5と大敗した。山田監督は「あの悔しさを忘れるな」と繰り返し、選手たちは、球際の戦い、攻守の切り替え、ハードワークなどからなる「5原則」を自ら掲げて原点を見つめ直した。田部井涼は「この景色を見るために1年間やってきた」と振り返った。
出場21回目での初の頂点。悲願にたどり着くにはそれ以上の長い時間があった。山田監督が1983年に就任した当時、サッカー部は荒れ放題だった。
「走ろうといっても走らない。だから一緒に走った。毎日がけんかのようだった」。体力に任せてけるスタイルから、パス重視に変化していった。自身も昨年4月に校長になった。
「昨年も今年も、決勝の場にいることが財産になるんです」。山田監督の言葉に実感がこもった。(潮智史)