自作の詩「自己紹介」の1行目の柱と並ぶ谷川俊太郎さん=11日、東京オペラシティアートギャラリー
日本を代表する詩人を日常生活など詩作の背景から紹介する「谷川俊太郎展」(朝日新聞社など主催)が、東京・西新宿の東京オペラシティアートギャラリーで開かれている。1月13日の開幕前に会場で谷川さんに話を聞くと、「もし他人として見たら結構おもしろい展示。これで私という人間がわかるとは思わないけど。自分でもわからないんだもの」と話した。
展示の中心は「自己紹介」(2007年)という自作の詩。「私は背の低い禿頭(とくとう)の老人です」で始まる20行が1本ずつ柱になり、それに関連するコレクションや音楽、書簡、写真、Tシャツなどを紹介する。最初の行には、等身大の本人の写真がつけられ、「谷川を微分すると答えは?/ぼくには分かりません。」と手書きのコメントが付く。
「私が工具類が嫌いではありません」には、様々なデザインのラジオのコレクションを並べる。
「もう半世紀以上のあいだ」には、デビュー作「二十億光年の孤独」を手書きしたノートと、詩作に使ってきたワープロやパソコンを披露。「手書きは地獄だった/パソコンが天国ってわけでもないけど(笑)」のコメントをつけた。
谷川さんは「字が下手だから。母親にすごく直されたんですよ。そのトラウマがある。手書きなど文字の姿で味付けしたくない。味のない活字で伝えたい立場です。明朝体の普通の活字がいい」と話した。
最後の行「私が書く言葉には値段がつくことがあります」には、1958年1月と2月の収入表を付けた。1月は「NHK10200」「バヤリース25500」とある。出演料やコマーシャル関連だろうか。この月は合計「93748」。大卒公務員の同年の初任給は9200円だった。「どうにか経済的に自立したと思った時期で、収入がまだ少なかったから、家計簿をつけてやりくりしていました」と谷川さん。
20歳でデビューした86歳の大詩人だけに、回顧展になりそうなところだが、ギャラリー側は「実生活を基盤にわかりやすい言葉で詩を紡ぎ出してきた詩人・谷川俊太郎を浮かび上がらせたい」と狙いを明かす。
「自己紹介」のほかには、言葉遊びが楽しい「いるか」「かっぱ」などの自作の詩の朗読を、多数の大型ディスプレーに1文字ずつ写し、音声が360度回る仕掛けもある。音楽家小山田圭吾さんらとのコラボレーションだ。谷川さんは「我々はふだん、連続した言語として使っているけれど、1文字、1音に分解していくと、言葉ってそういうものから成り立っているんだってことがわかっておもしろい」。
この展覧会のために書き下ろした「ではまた」も展示している。
ところで、谷川さんは1964年の東京五輪の公式記録映画「東京オリンピック」(市川崑監督)で脚本を担当した。2020年五輪について尋ねると、「コメントはすべて拒否しています。今の五輪があまりに変わってしまったから。全体がね。特にカネだね。ドーピングよか、カネの方がやだね」。行き過ぎた商業化に詩人はあきれているようだった。
展覧会は3月25日まで。一般1200円、大学生・高校生800円、中学生以下無料。問い合わせはハローダイヤル(03・5777・8600)。(曺喜郁)