制作に携わった(左から)畑中弘子さん、谷敏行さん、かなざわまゆこさん=昨年12月21日、神戸市兵庫区、石田貴子撮影
阪神・淡路大震災の教訓を子どもたちに伝えたいと、防災絵本「地震がおきたら」(BL出版、税抜き1200円)が出版された。神戸市垂水消防署消防司令の谷敏行さん(37)が発案し、被災者たちが制作に関わった。震災を知らない世代が防災意識を高め、自分の命を守ってほしいという願いが込められている。
特集:阪神大震災
「地震がおきたのは、お母さんが小学3年生の時よ。こわれたおうちの中に、とりのこされたの」
神戸市中央区で開かれていた「神戸ルミナリエ」の会場内で昨年12月15日、読み聞かせがあった。大阪府吹田市の小学6年生、牛之浜胡花(こはな)さんは「本当に起きたら怖いな。家族で場所とか決めて避難したらいいと思う」と話した。
谷さんは神戸市北区に住んでいた中学2年の時、震災を経験した。がれき運びを手伝い、復旧作業をする人たちを案内した。
消防士になって10年近く経った2015年、小学校や地域の防災訓練で講師役として参加した。「地震の時はどうしたらいい?」「地震が身近に起きると思う人?」。子どもたちに尋ねると、反応が鈍かった。前年に市の地域防災計画の改定作業に関わっていたこともあり、「災害弱者になりやすい子どもに防災情報がなかなか伝わらない」ともどかしさを覚えていた。
絵本ならば、広く情報を伝えられるのではないか。一昨年春、原案を書き上げ、市内にある数社の出版社に連絡したところ、BL出版が「震災を知らない子どもたちに向けて神戸から発信したい」と賛同。神戸市内の作家らに協力を求め、昨秋、出版にこぎつけた。
文は同市北区で被災し、炊き出しなどを経験した児童文学作家の畑中弘子さん(74)が担当。「ひとごと」だった震災を「自分のこと」として考えてほしいと、母親が子どもの時の震災体験を小学生の子ども2人に語りかける形で物語が進むようにした。地震の発生直後や家に閉じ込められた場合、避難所での対応などを紹介している。
神戸の街並みや子どもたちの表情を温かいタッチで描いたのは、同市西区で被災した絵本作家のかなざわまゆこさん(36)。倒壊した建物に残された女の子には、けがをしないようにスリッパを履かせた。避難所で配られるおにぎりは衛生面に配慮してラップで巻いた。
絵本の中には、周囲で火災が起きる中、建物に取り残された女の子が助けを求めても、消火活動をする消防隊員たちに届かないという場面がある。谷さんは「大災害時、消防はすべての現場に対応できない時もある。自分の安全は自分で守り、日ごろから地域が連携することが大切だというメッセージを届けたかった」と話す。
絵本は全国の書店で販売中。神戸市や滋賀県内の一部の小学校にも置かれ、イベントなどで読み聞かせも開かれている。谷さんは「全国の子どもたちに防災意識を身につけてほしい」と話す。昨年12月にはBL出版から神戸市消防局に絵本の紙芝居が寄贈された。
問い合わせはBL出版(078・681・3111)。(石田貴子)