女子1000メートルで銀メダルを獲得し、声援に応える小平奈緒=14日、江陵オーバル、白井伸洋撮影
(14日、平昌五輪スピードスケート女子1000メートル)
「滑る相手は食べてしまえ」小平、殻を破った乱暴な言葉
スピードスケート女子1000m
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600メートル地点を最速の44秒55で通過した。女子1000メートル世界記録保持者の小平がブレード(刃)で氷を押していく。レース終盤も耐えた。「自分らしいレースはできた」。先に滑った1位のヨリン・テルモルス(オランダ)とは0秒26差。しなやかな滑りで銀メダルに輝いた。
「いい巡り合いができた」。小平を自身初の個人種目のメダリストへと導いたのは、滑りの技術とともに、最新の「サファイア」と名付けられたブレードだ。
出会いは衝撃だった。
2017年1月。リンクで試した。「ダメです。足が全然動きません」。滑走を終えた小平は結城コーチに言った。だが、結城コーチはタイムを見て驚いた。26秒3。当時の最速ラップより0秒2も速かった。
結城コーチは悩んだ。世界距離別選手権が1カ月後に迫っていた。このタイミングで「足」を変えていいのか。「五輪まではまだ1年ある」。小平とともにこの足で戦うことを決めた。
ブレードはカーブでの操作性を高めるために左に湾曲している。先端と真ん中で進む向きが違う。「それがブレーキを生んでいた」(結城コーチ)。だが、しなりが利く最新ブレードはほぼそれがなかった。カーブでのわずかな加速までこだわり抜き、足首や股関節が柔らかく可動域が広い小平の特性がさらに生きた。
ただ、操作が難しい両刃(もろは)の剣でもあった。実際に転倒も経験した。この「暴れる道具」をどう操るのか。毎日の体幹強化に加え、カーブでの理想の左右の足の位置、運びなどを模索。「(ブレードと)友情を深めてきた」と小平は言う。今季から短距離を中心に多くの選手がこの道具を使った。
「1000メートルで3位以内は500メートルで金を取るための方程式。次の500メートルに生かしたい」。足の変更をいち早く決断した勇気と、道具を操るための技術向上を積み重ねた成果がメダルに結実した。(榊原一生)