ドイツ1部リーグの試合で、VARの使用を指示する審判(中央)=ロイター
VAR(ビデオ副審)
「最小の干渉で最大の利益」をうたい、使用する場面は得点、PK、一発退場、警告と退場時の人違いに限定。試合結果を左右する場面での明らかな判定ミスを減らすことが目的。映像をチェックするVARから無線で連絡を受けた主審は、必要と判断すればピッチ脇のモニターで確認、最終的な判定を下す。選手や監督などがVAR判定を求めることはできない。
スポーツ界でビデオなど映像技術を判定に持ち込む動きが進むなか、日本サッカー協会がビデオ副審(ビデオ・アシスタント・レフェリー=VAR)の試験導入を始めた。早ければ、Jリーグでは2020年から採用されるが、サッカー特有のスピード感を妨げないか、と懸念する声は根強い。経費や人材育成などの克服すべき課題も多い。
FIFA会長が積極的、W杯ロシア大会も
VAR導入は、3日にスイスで開かれた国際サッカー評議会総会で正式に決まった。国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長が導入に積極的で、今夏のワールドカップ(W杯)ロシア大会でも使われる見通しだ。
日本では試験導入された一昨年末のクラブW杯準決勝で、判定が変わり、鹿島にPKが与えられた。記憶に新しいのは、昨年11月の日本代表の欧州遠征の例だ。ブラジル戦でVARを初めて体験し、その効果を苦みとともに実感した。
前半8分過ぎ、ピッチ外で映像をチェックしたVARから無線が入り、主審が試合を止めた。ピッチ脇のモニターで吉田が相手を腕で引き倒す場面を確認。ブラジルにPKを与え、吉田に警告を示した。この間、約2分を要した。
試合ぶつ切り、欧州では反対も
ドイツ、イタリア、豪州、米国などの各国リーグですでに導入されているが、VARを使うたびに試合がぶつ切りになるため、欧州などでは反対意見は多い。審判側からは「映像を頼ることになり、審判のレベルが低下する」という指摘もある。
日本協会は、導入が進む流れに応じて、昨年に試験導入を決定。すでにルヴァン杯に導入している追加副審は継続し、判定の正確性や効果について比較分析を重ねる考えだ。
VARは、審判の研修や導入までの手順が細かく定められており、2018、19年にわたってテストを重ね、J1で導入されるのは早くても20年になる。
設備投資は1億円超の見込み
日本で課題となるのは人材の確保だ。現在の4人の審判に加えて、VAR、VARを補助するインストラクター、映像を扱うオペレーター、映像を確認する主審を手助けする技術者が必要とされる。
なかでも重要なのは、VARの映像を元に判定ミスがあったかを判断して主審に伝える人の育成だ。現在、J1を担当する主審は25人程度。判定の精度を保つためには、現役主審や引退した審判を含めて60人程度が必要と想定されている。
また、J1全会場に映像を瞬時に再生する専用車を配置するため、設備投資に1億円を超える経費を見込んでいる。
日本協会の小川審判委員長は「映像を確認するVARも人間で、たとえば、退場にあたる反則かどうかの判断には主観が入る。突き詰めると、判定を巡るサッカー文化の成熟が問われる」。審判の判定を下す作業は複雑化し、判定が覆れば権威も失いかねない。W杯は審判にとって受難の大会になるかもしれない。(潮智史)