裁判長が読み上げる判決を聞く今井隼人被告(手前)=横浜地裁、絵と構成・柚木恵介
川崎市の有料老人ホームでの連続転落死が、朝日新聞の報道で発覚してから2年半。横浜地裁は22日、無罪を主張していた今井隼人被告(25)に死刑を言い渡した。
老人ホーム3人転落死、元職員に死刑判決 横浜地裁
今井被告はスーツにネクタイ、刈り上げた髪形で法廷に現れ、真っすぐ前を見据え、硬い表情で裁判員らと向き合った。渡辺英敬裁判長は主文を後回しにし、判決理由から朗読。約2時間にわたり、被告は座って耳を傾けた。最後は裁判長に促されて立ち、「死刑」の主文が言い渡されると、裁判員らに一礼して退廷した。
被告は16年2月7日、神奈川県警による任意の事情聴取に「入所者から頼まれて殺した」と供述。同月15日になって「僕が殺そうと思って殺したのが事実です」と語ったことから、殺人容疑で逮捕された。横浜地検の取り調べで「公判で本当のことを話す」と黙秘を開始。裁判では、殺害を認める前に警察官から圧力があったと主張した。
渡辺裁判長は「自白の信用性をまつまでもなく、被告が犯人か、その嫌疑が高度だ」と述べ、「人間性のかけらもうかがわれない犯行」「更生の出発点にも立っていない」などと厳しく批判する言葉を続けた。(飯塚直人)
遺族「真実語らぬ被告、残念」
2人の被害者の遺族が22日、代理人の弁護士を通してコメントを出した。
4階から転落死した女性(当時86)の長男は「母へ良い報告ができると思う。3人の尊い命を奪った以上、自分の命をもって罪を償うことは当然。ただ、この裁判で被告の口から真実が語られなかったのが残念でならない」などとコメントした。
また、6階から転落死した女性(当時96)の遺族は「一日たりとも心が休まる時がなかった。顔色ひとつ変えず、反省もない被告には、腹立たしく、悔しい思いをしてきた。母の無念が報われた判決だが、遺族の苦しみ、悲しみは到底消えることはない」などとした。
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事件後に施設の運営を引き継いだ「SOMPOケアメッセージ」(東京)は22日、「ご逝去されたご入居者さまのご冥福を心よりお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまに深くおわび申し上げます。判決を重く受け止め、今後一層の安全管理体制の強化、社員教育を徹底し、信頼回復に全力で努めてまいります」などとするコメントを出した。
施設では事件後、防犯カメラを増設。施設内の見回りも強化している。また、再発防止のためのプロジェクトチームも立ち上げた。施設管理者などには、入所者への虐待を防ぐための研修を定期的に受講させ、その内容などを施設職員の間で共有しているという。
事件の経緯
2011年秋 川崎市幸区にSアミーユ川崎幸町がオープン
14年5月 今井被告が施設で働き始める
11月4日 男性(当時87)が4階から転落し、死亡を確認
12月9日 女性(当時86)が4階から転落死
31日 女性(当時96)が6階から転落死
15年9月 朝日新聞の報道で連続転落死が発覚
16年2月15日 今井被告が神奈川県警の事情聴取で犯行を認める供述。1件目の殺人容疑で逮捕
4月15日 3件目の殺人罪で起訴され、捜査終結
18年1月23日 横浜地裁での初公判で被告が起訴内容を全面否認
3月1日 検察側が死刑を求刑し、弁護側は無罪を主張し結審