朝日新聞デジタルのアンケート
「フェイク(偽)ニュース」という言葉を、よく目にするようになりました。トランプ大統領が誕生した米大統領選ではその拡散が問題になり、日本では昨年の流行語大賞のトップテンにも選ばれました。フェイクニュースとはどんなもので、どう向き合えばいいのか。みなさんと一緒に、考えてみたいと思います。
【アンケート】広がるフェイクニュース
デマでも注目得たい欲
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられたご意見の一部を紹介します。
●「SNSの台頭により、一般人の『注目されたい』という欲が強くなったと感じる。『インスタ映え』や『いいね稼ぎ』などもその欲求の表れではないか。フェイクニュースが生まれる背景には、デマを流してでも注目されたいという欲求が人々の中にあるからだと思う」(東京都・20代女性)
●「ネット上のフェイクニュースというと若者世代がだまされるイメージなのでしょうが、案外そうでもないと感じます。母親はスマホのニュースアプリを活用していますが、配信者に偏りがあるようで明らかに事実とは違う印象操作を受けていました。事実と証拠を提示して説明すると理解できたようで、『自覚なくフェイクニュースに乗っかってしまった』と落ち込んでいました。私たちの世代は授業でも生活でもネットリテラシーを学ぶ機会があり、情報が正しいのか検証することもしますが、年配の世代のほうが偏見や妄信があるのではないかと感じます。ネットの情報はまったくもって全て信用できない、という一種の偏見も中年以降の人には多いと思います」(島根県・10代女性)
●「『そういう動きがあってほしい』という願望通りのニュースに目が留まると、拡散してしまうのだと思う。自ら進んで声に出しにくい思いも、誰かが大声で叫んでいれば、それに乗じてしまう心理があるのだろう。最近自分のそういうところに気がつき、安易なRTやうわさ話をするのを控えるようになってきた」(東京都・50代女性)
●「ネット上の情報は50%しか信用しないことにしている。情報源や内容を吟味して、信用度を判断するのが正しいのかもしれないが、時間もかかるし、そもそも情報源として示されているソースがフェイクかもしれない。それで、内容からして怪しい情報は、うそかもしれないが、そういう情報があるという程度にとどめて覚えておくだけにしておく。フェイクかも知れないニュースに基づいて議論している人がいるが、そうした行為は多くの人にとっては時間の無駄だし、生産的ではないと思う」(東京都・50代男性)
●「意図して広める人は論外だが、便乗的に(愉快犯的に)、あるいは何らの意図なく安易に転送/拡散されるケースも少なくないように感じられる。立ち止まって考えれば内容の不確実さ・不適切であることは分かるはずなのに、相手の顔を見ることなくボタンひとつで行えてしまう手軽さが、考え直す(配慮する)ことを妨げてしまっている。そして、その手軽さと裏腹に、一度ネット空間に出てしまうと撤回できないことが問題を大きくしてしまっている。利用者自身が自覚をしないと、情報発信の機会・手段が増えているにもかかわらず、それにつれて、逆に表現や発言、議論の空間がどんどん窮屈、険悪なものになっていってしまうのではないだろうか」(埼玉県・30代男性)
●「発信者の意図あるいはそのニュースの真偽に関わらず、自分の嗜好(しこう)あるいは思考に合えば、拡散するというのは、井戸端会議のうわさ話と同じと思う。違うのは拡散速度と範囲が桁違いなことが深刻さを増している。受信者の私としては、常にニュース・ソースを意識するようにしている。これはSNSに限ったことではなく、マスコミ(テレビ、新聞など)もそうしている」(茨城県・60代男性)
●「既存のテレビ、新聞などのメディアはフェイクニュースはネット内だけのものであるように報道しますが、本当にそうでしょうか。少なくとも私は、テレビや新聞の情報は信用出来て、ネットの情報はうそだらけ、という様なスタンスには立ってません。テレビも新聞も、フェイクニュースかも知れないという目を普通に向けられていることを自覚して頂きたいですね」(千葉県・20代男性)
事実より早く広く拡散
「フェイクニュースはしばしば口コミに乗り、素早く拡散するため、とどめるのは難しい」
ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は今年1月24日、フェイクニュース問題について、こんなメッセージを公表しました。
「それは、人の心にわき起こりがちな、果てしない欲望にアピールするからだ」
フランシスコ法王はメッセージの中で、「真実」の重要性と、対策の必要性を繰り返し訴えました。
そして法王自身も、そんなフェイクニュースの“被害者”になった経験があります。
米大統領選が佳境に入った2016年夏、ネット上に「バチカン発」のこんな「ニュース」が広がりました。
「フランシスコ法王が世界に衝撃、大統領選でドナルド・トランプ氏を支持、声明を公表」
共和党候補だったトランプ氏への支持を法王が表明した、という全くのフェイクニュースでした。しかも、フェイスブックを中心としたソーシャルメディアでは、これが100万回以上も共有され、拡散したのです。
フェイクニュースは同じ年、英国で行われた欧州連合(EU)離脱を問う国民投票や、翌年のフランス大統領選でも拡散が指摘されました。
日本でも16年、DeNA(ディーエヌエー)のキュレーション(まとめ)サイトで、科学的に根拠のない内容が掲載されていると問題に。また昨秋の総選挙でも、「首相、国連の選挙監視団を拒否」などの事実ではない情報がネット上に流れました。
デマやプロパガンダ(宣伝)は、紀元前からあった、とされます。
最近の特徴は、スマートフォンやソーシャルメディアの普及によって、情報が瞬時に、地球規模で拡散するようになった、という点です。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは今年3月、ツイッターでのフェイクニュースの広がりを調べた研究を米科学誌サイエンスに発表しました。それによると、フェイクニュースは本当のニュースよりも早く、広く拡散し、リツイート(転送)される割合も70%高かった、といいます。
フェイクニュースの影響力は、従来のデマなどとは比べものにならない大きさがあると言えそうです。
米国でフェイクニュースが注目を集めたのは、その拡散が大統領選に影響を与えたのではないか、との懸念があるためです。また大統領選後、フェイクニュースを信じた男性が、ワシントンのピザ店で発砲事件まで起こしています。日本のキュレーション問題でも、健康にかかわる内容に事実ではない情報が交ざっていたことが、不安を広げました。
パソコンやスマートフォンがあれば、誰でも世界に情報が発信できる時代です。情報の発信者だけの問題ではありません。情報の受信者も、転送や共有をすれば、同時に発信者の立場になります。
誰もがひとごとではない、身近な問題だということです。
政治目的やアクセス増狙う
「フェイクニュース」という言葉は、すでに19世紀末に描かれた米国の風刺画に登場しています。現在、この言葉はどんな意味を持っているのでしょう。
オーストラリアのマッコーリー英語辞典は、「2016年の言葉」として「フェイクニュース」を選び、こう定義しました。「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」
ネットでの拡散に注目し、フェイクニュースを広める動機として「政治目的」と、広告収入を狙ったアクセス増加という「ビジネス目的」の二つを挙げています。
また、英国のコリンズ英語辞典は、「2017年の言葉」としてやはり「フェイクニュース」を選び、こう定義しました。「ニュース報道にみせかけて拡散される虚偽の、しばしばセンセーショナルな情報」
こちらは、ニュースを擬装したそのスタイルや内容に注目しています。
フェイクニュースが大量に拡散した2016年の米大統領選では、この両方の要素が含まれていました。
ただ、トランプ米大統領は、自らに批判的なメディア報道に対して、やはり「フェイクニュース」という言葉を使っています。
このため、同じ言葉でも、その意味が混在している状況です。
今回のシリーズでは、主にマッコーリー辞典やコリンズ辞典が定義する意味で、フェイクニュースを取り上げていきたいと思います。
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いただいた200件を超すアンケートでは、7割以上の人たちがネットでフェイクニュースを「見たことがある」と回答。さらに8割近い人たちが、ネットで共有をする際に、フェイクニュースかどうかを「気にする」としています。多くの人たちが、この問題を身近に感じていることがわかります。さらに皆さんのご意見をお待ちしています。(平和博)
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