朝日新聞デジタルのアンケート
フェイクニュースは、ネット上でどのように拡散しているのでしょう? 私たちの目には見えないネットの裏側。でもデータをたどることで、背後にいる存在や目的が徐々にわかってくるようです。そしてその拡散には、人間だけではなく、「ボット」と呼ばれる自動プログラムも大きく関わっていました。
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プログラムが自動的に拡散
ネット上をフェイクニュースがどのように広がるのか――英オックスフォード大学オックスフォード・インターネット研究所のフィリップ・ハワード教授は「コンピューテーショナル(コンピューターによる)・プロパガンダ」というプロジェクトを立ち上げ、膨大な数のツイッターの投稿を収集。そのデータを分析することで、フェイクニュースなどの情報の広がりをたどる研究を続けています。
これまで、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票や米大統領選、フランス大統領選、英総選挙、ドイツ総選挙などで、フェイクニュースが拡散していった状況を、次々に明らかにしてきました。
その中で、人間のユーザーが発信するのではなく、特定のハッシュタグ(キーワード)などに反応して自動的に拡散をし続ける「ボット」と呼ばれるプログラムが、大きな役割を果たしていることも明らかになった、といいます。
2016年の米大統領選では、投票日前後9日間の選挙関連ツイート約1900万件を収集して分析。その結果、2割強は「ボット」が拡散していることがわかりました。そのうちトランプ氏支持の内容が過半数で、その割合は投票日当日には8割にまで急増したといいます。
南カリフォルニア大学の研究者が17年に発表した論文では、米大統領選後に活動を停止した「ボット」が、半年後のフランス大統領選で、再びフェイクニュースを拡散していたことが確認されたとしています。
またドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学の研究チームが同年末に発表した論文では、14年の日本の総選挙で、投票日前後に収集したツイート54万件を分析。8割が「ボット」などによる拡散で、中でも安倍政権支持の内容などが多く拡散されていた、としています。
様々な国の選挙に、「ボット」が忍び込んでいたのです。
戦略的に誰かが操作 オックスフォード大学 フィリップ・ハワード教授
昨年10月、来日したハワード教授にインタビューしました。主なやりとりは次の通りです。
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――フェイクニュースを拡散する「ボット」とはどのようなものですか?
「『ボット』はロボットの略です。ロボットのように、自動的にフェイクニュースなどを拡散するプログラムです。『ボット』を使うことで、膨大なツイートを拡散することができます。背後にはそれを操作する人間がいます。『ボット』は、政治家、ロビイスト、さらには一般的な市民も使います。ネット上の有料サービスとして『ボット』を利用することもできます」
――米大統領選の調査では、どんなことがわかりましたか。
「『ボット』のツイートの大半はトランプ氏支持の内容でした。つまり誰かが戦略的に、トランプ氏勝利を後押しするために、『ボット』を操作していた。そして投票日の翌日以降、『ボット』の動きはぴたっと止まってしまいました」
「分析をすすめると、『ボット』によるフェイクニュースの拡散には、明確な狙いがあったことがわかりました。両候補が接戦を繰り広げていた激戦州です。フェイクニュースなどを含むツイートの拡散が、16の激戦州のうち12州で全米平均を上回っていたんです」
「米国では、その背後にロシア政府が介入していたとの疑惑が指摘されています」
――フェイクニュースの氾濫(はんらん)は、社会にどんな影響を与えますか?
「有権者がフェイクニュースに接していれば、フェイクニュースが好きな政治家を選んでしまうでしょう。そして、政治家はより多くのフェイクニュースをつくり出していく――そんな危険なサイクルにはまり込んでしまうでしょう」
「もう一つの危険性は、国際紛争です。有権者が他の文化圏、人種、宗教についてのフェイクニュースを信じ始めると、文化的な誤解が広がっていきます。イスラム教徒や近隣諸国に対するヘイトにつながり、移民への誤解、多くの国際関係についての誤解へとつながります」
「政治以外の分野にも影響するでしょう。気候変動、遺伝子組み換え食品、喫煙とがん。公衆衛生にかかわるような様々なテーマです」
――フェイクニュース問題に、どう取り組めばいいのでしょう?
「メディアによるファクトチェックや、学校におけるメディアリテラシー(判断能力)の教育も、重要です。ただ喫緊の問題は、投票の数日前に、ソーシャルメディアなどが、有権者にフェイクニュースを届け、投票結果に影響を与えかねないという現状です。ソーシャルメディアの責任は大きいと思います」
問われる利用者の判断
朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた意見の一部を紹介します。
●「広告収入増が目的であればインセンティブを変えればいいと思うが、民意操作が目的の発信者に対しては、それにより民意が影響を受けない以外効果がないのでは。フェイクニュースを流通させない、リテラシーを磨く、発信者・媒体への罰則はもちろんのこと、自分に都合のいい情報ばかり求めない社会の醸成、事実に誠実な政治家・官僚・メディアの存在が必要」(神奈川県・40代女性)
●「誰もが容易に発信者となることができ、広告を掲載することで収益化することができるこの時代、『閲覧数さえ稼げれば』とわざと炎上を狙ったフェイクニュースを掲載する者が増えるのは当然ともいえる。そうした人々の発生自体を防ぐのは困難であるので、受け手が自ら情報を選択する力を身につけるほかない。新聞を中心としたメインストリームメディアが、閲覧者の多いソーシャルメディアやインターネットでより発言力を強めて対抗していくのがよいと考える」(東京都・20代男性)
●「個人の志向は様々だし、真偽を確認しにくい件もあるのでおのおので判断するのは限度がある。そもそもフェイクニュースとは何なのか、なぜ起こるのか、そしてどのように対処するべきなのかをメディアや教育を通してしっかり認識させて欲しい。安易な情報拡散は深刻な事態を招くことも教育するべき。選挙や政治に関するフェイクニュースはメディアがしっかり公表、否定、反論してほしい。フェイクニュースへの罰則も強化するべきだと思う」(東京都・50代女性)
●「小学校、中学校、高校と続けてネットリテラシー、メディアリテラシーの教育を義務づけてしっかりやるしかない。子どものころから、あらゆる情報について、安易な決めつけ、断定、誘導、甘言を疑ってかかるくせをつける。神奈川・座間の9人殺害事件も、被害者のほとんどはネットで容疑者とつながったことを忘れてはならない」(埼玉県・50代男性)
●「メディアがどれだけファクトチェックをしても、ネット企業がコンテンツの規制をしてもフェイクニュースを完全に排除することは実質的に無理だと思います。利用者による情報の真偽を判断する能力が問われる時代になってきているのではないでしょうか? そのためには信頼性の高い複数の情報源からニュースを得、真のジャーナリズムを支援してゆくべきだと感じます」(海外・50代女性)
●「ひとつの出来事をどこからどう見るかで真逆な話が出来上がる。フェイクニュースを『作る』人がいる。そう考えると、なかなかできることはない。新聞雑誌などであれば、その会社の信頼度や記名記事かどうか、取材先の人の信頼度(所属先や階級、実在の人物なのかなど)を見極めることかと。それを確かめるのもただの読者には難しい。……とりあえず一度「ほんまか?」と思ってみること。……難しい上に、気楽にさらっと読むことができなくなっている……というめんどくさい時になった、ということですかね?」(広島県・50代女性)
●「情報元、引用元を一次ソースまでたどれる(WEB技術としての)仕組み作り」(東京都・40代男性)
●「フェイクニュース自体より広まることが問題であるため、出所不明の強い言葉を使ったものは拡散しない。もしくは自分である程度確認をする。そしてフェイクニュース拡散した人間も責任の一端があることを自覚させる取り組みをする」(東京都・30代女性)
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フェイクニュースは、どこからともなく流れてくるのではなく、はっきりとした目的をもった組織や個人が計画的に発信し、大量に拡散している――そのことは、すでにデータからも明らかになっているようです。では、その拡散を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか。次回、みなさんと一緒に考えてみます。(平和博)
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