写真9 ティム・クックCEOは、同社の理念である「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」という発想方法を、教育にも適用して考えている
3月27日(現地時間)にアップルは米・シカゴで、教育を軸にしたイベントを開きました(写真1)。今回、新製品として同社が用意したのは、低価格な教育向けiPadです(写真2)。非常にお買い得な製品になっており、教育市場のみならず、多くの人々に魅力的な製品です。しかし、アップルが訴えたかったのは低価格のiPadだけではありません。教育向けiPadを用意した上で、各種教育向けコンテンツとシステムも用意してあり、教育市場に向けた準備が整っているということが、彼らが主張したいことなのです。それがどういうことなのか、分析してみましょう。(ライター・西田宗千佳)
低価格ながらアップル・ペンシルに対応
発表会で、アップルのプロダクトマーケティング担当副社長であるグレッグ・ジョズィアック氏は、アメリカのメディアの記事を引用しつつ、新iPadを紹介しました。
「299ドルのiPadは、アップルから教育産業へのラブレターである」(写真3)
iPadは、子どもたちにとって新しい文房具のようなものです。できれば、一人一台、自分専用のものが使えるのが望ましいです。だから、低価格で手に入りやすいものが求められます。アップルが教育市場向けに低価格iPadを用意するようになったのは、2017年春のことです。先のコメントはその時のものですが、2018年のモデルもその伝統を守り、教育市場向けは299ドル(日本では3万5800円)になりました。ただし、一般市場向けには329ドル(日本では3万7800円)からです。
低価格という意味では同じなのですが、お得感という意味では、昨年のモデルと今年のモデルでは大きく変わっています。Apple Pencil(アップル・ペンシル)に対応し、CPU性能的にもかなり改善したからです。外観はおなじみのiPadなのですが、低価格機種でも高性能なアップル・ペンシルが使えるのは、極めて大きな変化です。
筆者はいち早く新iPadを使っていますが、「ああ、これで満足する人は多いだろうな」と強く感じます。細かいスペックを比較していけば、iPad Proとの違いはけっこうあるのですが、その多くはこだわる人のためのものだと感じます。
昨年6月に発売され、現在も最上位モデルである「iPad Pro」は非常にハイクオリティーなディスプレーを備えた製品です。最大毎秒120回の描きかえに対応しているため、動作がなめらかでペンに対する即応性も優れています。表現できる色域も広く、写真や映像の編集にも十分耐えられます。こだわりのディスプレーを採用した結果、iPad Proは、タブレットとしてはかなり高価な製品になっています。
一方で、全ての人がそこまでのこだわりを求めているわけではありません。iPad Proは、iPadシリーズの中でペンが使える製品という意味合いもありました。書類への書き込みやちょっとした絵を描くといった用途のためにペンが欲しいと思う人がいても、これまでは必ず高価なiPad Proを購入する必要がありました。
しかし、新iPadは低価格でありながら、アップル・ペンシルに対応しました(写真4)。そもそも低価格といっても、iPadの品質は十分に高いものです。数千円から2万円程度で購入できるタブレットもありますが、それらの多くはディスプレー品質が低く、動作速度も遅くなっています。しかし新iPadは、そこで十分な品質を持っています。実のところ、iPad Proの2016年モデル(当時の販売価格は6万6800円から)に非常に似た特質を備えており、劣っているのはカメラの画素数くらいのものです。教育市場はもちろんなのですが、電子書籍を読んだり、映像配信を見たりする使い方にも合っています。
iPad Proには劣るが「ちょうどよい」性能を実現
もちろん、iPad Proから省かれた部分、足りない部分もあります。
CPU速度は、昨年の低価格版…