獣脚の鋳型がみつかった榊差遺跡=滋賀県草津市野路町
滋賀県草津市の飛鳥~室町時代の集落遺跡、榊差(さかきざし)遺跡で、奈良時代前半(8世紀前半)とみられる鍋や釜を支える「獣脚(じゅうきゃく)」と呼ばれる脚部をつくるための鋳型(いがた)がみつかった。市教育委員会が23日発表した。獣のつま先などが表現された獣脚の鋳型の出土例は少なく、これまでの平安時代の出土例をさかのぼり、国内最古級とされる。専門家は、奈良時代前半に金属製の一般的な煮炊き用の鍋や釜が生産され、その技術が東日本などへ広がる過程を考える上で重要な発見とみる。
市教委は土地区画整理事業に伴い、2015年から発掘調査を実施。溶かした金属を鋳型に注ぎ、固めて器物をつくる「鋳造(ちゅうぞう)」と呼ばれる金属生産の遺構がみつかった。今年2月、穴から50点近くの獣脚とみられる鋳型の破片が出土。破片を組み合わせた結果、長さ約24センチの獣脚の鋳型の一部に復元でき、直径約20センチの鍋を支える脚部とみられるという。
日本列島で鋳造がスタートしたのは弥生時代の青銅器生産から。7世紀後半の飛鳥時代後半に、鉄や銅による鋳造が始まったとされる。これまでの獣脚鋳型の出土例は大半が北陸や関東、東北に集中し、平安時代のものが最古だった。
榊差遺跡は、古代の主要道の一つで、都から東国に延びる「東山道(とうさんどう)」沿いに位置し、畿内と東国を結ぶ交通の要衝だった。また、遺跡の周辺は飛鳥時代後半に朝鮮半島から多くの渡来人が集まり、先進技術や知識を受け継ぎ、製鉄など国内有数の生産拠点だった。
五十川伸矢・元京都橘大教授(考古学)は「一般的な煮炊きの鍋を、広範囲に供給していた可能性もある。榊差遺跡が、古代日本の鍋釜生産の開始期の重要な工房跡かもしれない」と話す。
現地説明会は26日午後1時半から、JR琵琶湖線南草津駅南西約1キロの現場で。問い合わせは市教委文化財保護課(077・561・2429)へ。(岡本洋太郎)