花嫁姿の約2週間前、娘船頭として舟をこぐ須賀さん=潮来市あやめ1丁目
舟から見た景色は、いつもと違っていた――。10日、白や紫のハナショウブが雨に光る茨城県潮来市の水郷潮来あやめ園。須賀成穂(あきほ)さん(27)が、鮮やかに彩られた道を歩く。船乗り場で船頭に手を引かれ、舟に。いつもは観光客や花嫁を乗せ、舟をこぐ須賀さんだが、白無垢(むく)に身を包んだこの日は、中央に座った。
市役所で働く傍ら、5~6月のあやめまつり期間中は、観光客らを乗せるろ舟に乗り、「娘船頭」として舟をこぐ。2013年に船頭を始め、今年で6年目だ。きっかけは、当時、船頭役を担う地元の商工会の青年部長だった飯島康弘市議(45)の一声だった。
須賀さんは市役所に勤務して2年目の12年、まつりの運営や宣伝に携わった。あやめ園に行ったことはなく、嫁入り舟が「花嫁が舟で川を下り、下流で待つ花婿と出会う」という60年代まであった風習だということも知らなかった。
生き生きと舟をこぐ船頭の姿を見て思った。「あの輪の中に入ってやってみたい」。でも、大変だろうなという思いもあり、決心はつかなかった。
翌13年、まつりに携わる部署から異動に。船頭たちは寂しがった。そんな中、飯島さんの「本当にやらない?」という言葉が背中を押した。飯島さんは、笑顔で観光客を案内する姿を見て、向いていると思ったという。仕事帰りに練習を続け、船頭を始めた。
体力的にはきついが、お客さんと話し、喜んでもらえるのはうれしい。テレビの生中継に出たり、PRで首相官邸にも行ったりと、様々な経験ができた。
それに、こぎながら見た白無垢の花嫁は美しかった。「本人も見ている人も幸せになれる空間だな」と感じ、「結婚する時は自分も」と憧れてきた。昨年末、市役所職員の石橋大輝さん(29)と婚約。嫁入り舟の花嫁として、公募の中から選ばれた。
当日、船頭は飯島さんが務めた。花嫁として乗った、いつもの舟からの特別な光景。両岸に大勢の友人や観光客が詰めかけ、「おめでとう」「幸せに」の言葉が降り注いだ。「こんなに祝福の声がかかるなんて、こいでいる時は気付かなかった」。これからも、娘船頭としてまた舟をこぐ。(比留間陽介)