内藤正敏さん=東京都写真美術館
写真家にして民俗学者、SF的な作風から東北などの民間信仰へと関心を移す――。「カメラを持った修験者」を自認する異色の写真家、内藤正敏さん(80)の回顧展「内藤正敏 異界出現」(朝日新聞社など主催)が恵比寿の東京都写真美術館で開かれている。日常では見えないものを、強い意志で見ようとしてきた作家の軌跡をたどる作品約200点が並ぶ。展覧会の最後を飾る作品「聖地」は、内藤さんが2カ月の間、日々体内からひ(ね)り出し、色や形を選び抜いたモノを題材にしている。なんとも人を食った写真家に話を聞いた。
内藤さんは1938年、東京生まれ。土門拳賞や日本写真協会年度賞、遠野物語をテーマにした作品群により遠野文化賞などを受けている。
もうはっきり書いてしまおう。「聖地」の題材とは、うんこだ。
展覧会情報
展覧会は7月16日まで。月曜休館(7月16日は開館)。午前10時~午後6時(木、金曜は午後8時まで)。問い合わせは同美術館(03・3280・0099)。
内藤さんは1980年、雑誌連載の1回にうんこを選んだ。色つや、柔らかさ、とぐろの巻き具合など形にもこだわった。2カ月間、自宅の和式便器に落としたモノを凝視した。「肉ばかり食べていると黒くなりすぎる。理想的なうんこをするには、バランスのよい食事が必要とわかった」
これぞといううんこは、カステラの箱の内側にビニールを敷いて清流に運び、撮影した。「あやうくドラえもんのお弁当箱を使われるところだった」と証言するのは、取材に付き添った娘の瑞絵さん(45)。父の不穏な行動を察知して話し合い、お気に入りに危険が及ぶのを回避したという。
うんこを撮るのも真剣勝負
「うんこを論じると、環境や生命、宇宙論につながっていく。うんこを撮るのも真剣勝負だった」と振り返る。
展覧会を担当した同美術館学芸員の石田哲朗さんは「最後の一点は、宇宙的な美しいイメージになるかと想像していたから、内藤さんの選択には、あっけにとられた」と打ち明ける。それでも作品を眺めているうちに、考えは変わったという。「排泄(はいせつ)物という不浄であっても、全力を尽くして美しく写した。人の世の分別をあっけらかんと超越するすごみと痛快さこそが、内藤正敏の真骨頂ではないか」
■出発はSF、即身仏と…