海賊版サイト「漫画村」の画像。政府が接続遮断方針を発表した後に自ら閉鎖した(画像を一部修正しています)
漫画の海賊版サイト対策として、政府が今年4月に打ち出したインターネット接続事業者(プロバイダー)によるサイトブロッキング(接続遮断)をめぐる訴訟の第一回口頭弁論が21日午後、東京地裁で開かれる。プロバイダーによる接続遮断が、通信の秘密を侵すかが争点だ。背景にはどんな議論があるのか。
政府は4月13日、漫画村など海賊版3サイトを名指し、プロバイダーによる接続遮断の緊急対策を打ち出した。
1~2日前に総務省の鈴木茂樹総務審議官がNTT(持ち株会社)、KDDI、ソフトバンクの3社を訪れ、各社長に遮断の趣旨を説明したという。鈴木総務審議官は「立法化したうえで遮断するのが望ましいが、著作権侵害の違法行為を見過ごすわけにはいかない、という政府の判断を3社に説明した」と話す。
NTTグループのみ、同月23日に今後、海賊版対策として遮断を実施する方針を表明。KDDIは「慎重に対応していきたい」、ソフトバンクは「検討を進めている」として実施していない。ただ、同月17日ごろから接続できなくなった漫画村など3サイトは、自ら閉鎖したとみられている。
背景には、一部の専門家が、立法せずに行政判断で遮断すれば、通信の秘密を侵し、対象の無制限の拡大を許す危険性もある、と批判していることがある。政府による3サイトの名指しを「検閲の恐れがある」と指摘する学者もいる。
こうした中、ネットに詳しい中沢佑一弁護士が4月26日、3サイトへの通信を妨害しないよう求め、遮断を打ち出したプロバイダーのNTTコミュニケーションズを相手取り東京地裁に提訴した。
訴状では、海賊版3サイトへの遮断は約款などの変更や顧客の同意がないうえ、遮断するためにはアクセスする通信の行き先をすべてチェックし、海賊版サイト向けのものをブロックすることから、電気通信事業法4条で電気通信事業者に保護が義務づけられた通信の秘密を侵害する、と主張している。
ネット上での書き込み削除や発信者情報開示請求を数多く手がけてきた中沢弁護士は「海外でも法律がないのに遮断するのは中国など一握りだ。これまでNTTを含めプロバイダーは通信の秘密を厳格に守り、権利を侵害する情報であっても原則として発信者の情報開示を拒否してきた。今後、どうするつもりか」と疑問を投げかける。
これに対し、NTTコムは「通信の妨害は多義的で不明確」として請求の棄却を求めて争うとみられる。(川本裕司)