「終活」を考える
自分には貯金はそれほどなく、他に目立った財産もありません。それでも相続で問題は起きるのでしょうか。何か決めておくべきことはありますか。
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家族の仲が良いから、自分の死後の相続でもめることはないと思っていても、実際はもめるケースがあります。それは自らが財産を所有している目線で考えており、今後起こるかもしれない出来事を想定していないからです。
千葉県の50代男性のTさんは、妻子と母親と暮らしていました。姉や弟とは仲が良く、以前父親が亡くなった時の相続も円満に終わりました。母親は、子どもたちの仲が良く、大きな財産もないため、遺言書などつくらなくても良いと思い、特に相続の準備はしていませんでした。
母親は足の骨折後に認知症になり、施設の空きがなく自宅介護になりました。数年後、母親は亡くなり、Tさんは遺産について姉と弟と話し合うことになりました。
Tさんは、同居して母親の介護をしていたので、自宅は自分が相続するつもりでした。ところが、すんなりとは進みませんでした。母親の預貯金がそれほど残されていなかったため、姉はTさんが母親から金銭援助を受けたはずだといい、弟も同調しました。2人は遺産をきちんと分けるため、自宅を売るべきだと主張したのです。
相続でもめることが多いのは二次相続です。Tさんのケースでは、最初に亡くなった父親の相続が一次相続、次に亡くなった母親の相続が二次相続となります。
一次相続では残った老親を案じ、大半の遺産をその親に相続させるケースがほとんどです。なかには預貯金は親にし、不動産などは相続人全員の共有名義にすることもあります。
ところが二次相続ではもう親がいないため、きょうだい次第です。自分が親の介護を負担していた、自分だけ損をしてきたなど、さまざまな感情が出てくることがあります。さらにきょうだいの配偶者も加わり、相続がスムーズに進まない場合があります。
こうした事態を防ぐためにも、親はきちんと準備をしておく必要があります。介護になった時に負担をかける子の感情はどうか、子らが不仲になったら共有名義の不動産は売るのが大変にならないか、平等に分けにくい財産は感情次第でもめないか、など先のことを考えておきましょう。
葬儀や法要、税務申告、遺品整理などにかかる費用を誰が負担するのかも考えなければなりません。遺産から差し引いてほしいという人がいますが、遺産分割は死亡時の財産を分けるもので、死亡に関わる費用を差し引いた残りを分けるものではありません。例えばいったん長男が立て替え、結局、長男の負担になってしまうケースもあります。親が遺産から差し引いてもらいたいなら、子ども全員にその旨を伝えたり、死亡保険金を葬儀費に充ててもらったりすることも必要です。
相続では、現状だけでなく、将来起こる出来事、子の感情や死後の費用にも目を向ける必要があります。
子どもたちに話をする、遺言書をつくる、生前贈与する、保険金を活用するなど、対策は様々でしょう。不安なら相続の専門家に相談するのも一案です。思わぬ問題が明らかになることもあります。(相続・終活コンサルタント 明石久美)