競泳男子で五輪通算6個の金メダルを獲得しているライアン・ロクテ(33)=米=が23日、ドーピング違反で1年2カ月の資格停止処分を受けた。原因は、風邪の予防のために打ってもらった静脈注射だった。
米反ドーピング機関(USADA)の発表によると、ロクテは5月24日にクリニックでビタミン注射を受けた写真をSNSに投稿した。静脈注射は血液を薄めて禁止物質の陽性反応を隠蔽(いんぺい)する恐れがあるため、世界反ドーピング機関(WADA)の禁止リストに載る行為だ。今年から「12時間あたり計100ミリリットルを超える点滴」を受けるにはTUE(治療目的の特例措置)を事前申請する必要がある。USADAが調査すると、事前申請していなかったことがわかり、違反が確定した。
AP通信などによると、ロクテは米フロリダ州で開いた記者会見で、静脈注射を受けた理由について「妻と子どもが風邪をひいたので、予防したかった」と説明した。「違法なものは打ってもらっていないし、これまでも禁止物質を摂取したことはない。ただ、新しい規則のことは知らなかった」と話した。
処分期間は、5月24日から2019年7月までとなる。
ロクテは16年リオデジャネイロ五輪時に、米国の競泳選手3人と一緒に虚偽の強盗被害を申告。米国オリンピック委員会と米国水連から、昨年6月まで10カ月の資格停止処分を受けていた。(遠田寛生)
例外措置の点滴に注意点
ドーピング違反は禁止物質の摂取だけではない。「禁止方法」もある。競泳男子で五輪通算6個の金メダルを持つライアン・ロクテ(米)の違反は、日本のスポーツ関係者に警鐘を鳴らすケースとなった。
世界反ドーピング機関(WADA)の禁止リストで、静脈注射は常に禁止されている。血液を薄め、禁止物質の陽性反応を隠蔽(いんぺい)する恐れがあるためだ。例外措置として、病院などの点滴など正当な医療行為は認められている。
その点滴で、二つ注意すべき点がある。
まずは禁止となる投与の許容量だ。従来の「6時間あたり50ミリリットルを超える点滴」から、「12時間あたり計100ミリリットルを超える点滴」に今年から変更された。禁止物質ではない治療薬を安全に使えるよう、許容量を増やしたという。
そして、点滴を受ける場所だ。昨年まで「医療機関の受診過程」と日本語訳された文言は「入院」になった。つまり、入院設備を持つ病院や有床診療所のみで認められる。WADAが明確に見解を示してきたため、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が訳を修正した。無床診療所での許容量を超える点滴には、TUE(治療目的の特例措置)取得が条件となる。
解釈変更には、世界のドーピング事情が関係している。日本では無床診療所でも高いレベルの医療を受けられるが、海外の状況は違う。個人経営のクリニックなどでは、ドーピングの資材や器財をアスリートに提供し、生計を立てている医師がいるという。
実際、ドイツ公共放送(ARD)は昨年、南米のクリニックの医師が選手に禁止物質を渡すシーンを番組で放送した。2016年にはサッカー元フランス代表のサミル・ナスリが、体調不良を理由に米国のクリニックでビタミン剤の注射を打ち、ドーピング違反で6カ月の資格停止処分を受けた。
JADAの浅川伸専務理事は「有床で入院施設がある施設はガバナンスが利く期待があるが、無床で外来専門のクリニックなどはドーピングに加担する可能性がある。それがWADAの考え」と説明する。
変更点について、JADAは競技団体を集めた連絡会議で通達。今年3月には、ホームページ上で注意喚起もした。しかし、医師やトレーナーらに相談できる環境を持つ選手ばかりでもないため、継続した注意喚起が大切になる。