スポーツクライミングの花形種目「ボルダリング」のワールドカップ(W杯)で、世界女王の座を巡る争いが佳境を迎えている。今季は、残り1戦。女子の年間総合優勝の行方は、すでに日本勢の野中生萌と野口啓代(いずれもTEAM au)の2人に絞られた。日本はボルダリングW杯の国別ランキングで4年連続1位の最強国。その2トップが繰り広げる、最終盤のデッドヒートに注目だ。
500対495。
野中と野口が今季、W杯を6戦戦ってそれぞれが積み上げてきたポイントだ。優勝なら100点、2位は80点、3位は65点と順位に応じてポイントが割り振られる仕組みだが、その差はわずか5点。まれにみる大接戦で最終戦に突入する。
現在W杯ランキング1位の野中はスイスで4月にあった開幕戦で2季ぶり3度目の優勝を飾ると、2戦目以降は5戦連続2位と、安定感が光る。ランキング2位の野口も第3~5戦で3連続優勝を果たし、その他は全て3位。2人とも表彰台を一度も逃していない。
2人を追うランキング3位のファニー・ジベール(仏)は305点にとどまっており、すでに逆転は不可能。昨季まで2季連続で年間優勝を勝ち取ったショウナ・コクシー(英)も、オフに右手薬指にけがを負って満足なトレーニングが積めなかったことが響き、今季は7位(174点)と振るわない。
初の頂点を見据える21歳の野中は、「モチベーションを保てているのは、啓代(野口)ちゃんがいるからかなっていうのはありますね。戦うのが楽しいし、高め合えているなっていうのは感じます」。一方の野口も苦笑まじりに、「初戦からもうずっと順位が一つ、二つの違いでここまで来てますから」。
野中は、15メートルの壁を登る速さを競う種目「スピード」の女子の日本記録(9秒28)を保持していることが示す通り、爆発力のあるダイナミックさが特長だ。今季開幕戦の最終第4課題ではその、らしさが光った。垂直を超えて手前に前傾する壁に、最初のトライは失敗。それでも、2度目のトライで離れたホールドに右手一本で飛びつくパワフルな動きを決めて、優勝をたぐり寄せた。
一方、29歳の野口は2015年以来、通算5度目のW杯年間優勝を狙う。「(野中に)一番刺激を受けます。登り方が全然違うので、すごく参考になるところが大きい」
野口の真骨頂は、柔軟な対応力だ。20歳だった2009年に初の年間優勝をさらって以来、長年世界のトップを走ってきた分、引き出しの数が違う。6月にあった第5戦八王子大会の最終第4課題では、苦手にしている緩傾斜の壁をものともせず、一発で完登して優勝を決めた。W杯通算21勝の野口は、女子のアンナ・シュテール(オーストリア)が持つ男女通じて史上最多の22勝へあと1勝にも迫っている。
最後に笑うのは野中か、野口か。最終戦に向け、「すごく意識しているわけではないんですけど、流れ的にそうなっているので楽しみ」と野中が言えば、野口も「戦うのが生萌(野中)で、すごく楽しみですね」。ボルダリングW杯今季最終第7戦は8月17、18日、ドイツ・ミュンヘンで開催される。(吉永岳央)