「深く謝罪をいたしたい」「すべて我々の責任です」。アメリカンフットボールの日大と関学大の定期戦で悪質タックル問題が起きてから約3カ月、ようやく日大の田中英寿理事長が声明を出した。謝罪の言葉を述べ、改革への覚悟も記されているが、自らの言葉で具体案は語らなかった。
日大の田中理事長「反省して大学運営行う」初の声明発表
「学生ファースト忘れられていた」 日大理事長声明全文
遅きに失した上に、空虚な言葉がつづられた日大の田中英寿理事長の声明文だった。
「鋭い痛みでした」。田中理事長は悪質タックル問題の調査を依頼した第三者委員会の「日大における学生ファーストの精神が見失われていた」との指摘にそう語り、理事による口封じには「驚愕(きょうがく)と激しい怒りがこみ上げた」と記した。受け止めは真実であると信じたいが、やはりひとごとのように聞こえてならない。
そもそも、日大と関学大のアメフト部の間で起きた問題として放置してきたのは大塚吉兵衛学長であり、経営トップの理事長だ。
全学を巻き込んだ不祥事へと発展したのだから、トップダウンでの危機管理対応をしなければならなかったし、できたはずだ。ところが、対応はすべて後手に回った。ガバナンス(組織統治)を発揮できずに日大への信頼を失墜させた責任は免れない。
この約3カ月、大学側主導の解決に向けた施策はあっただろうか。事実解明に本腰を入れ始めたのは、5月にスポーツ庁から再発防止の徹底と早急な第三者委の設置を促されてから。今回の声明文も、その第三者委から説明責任を突きつけられてのものだ。外部に言われたからその通りに従い、指摘された点については真摯(しんし)に受け止める。そんな主体性のない姿勢なのに「改革に取り組んでいく覚悟」との言葉をどう理解すればいいのか。大塚学長が兼職禁止を発表した一方で、田中理事長は理事長職と相撲部総監督の兼職に言及しなかった。
大人の「事情」によって、アメフト部の秋のリーグ戦参加はかなわず、結局そのつけは選手に回された。「誠に申し訳ない。すべて我々の責任です」。本当にそう思うなら、公の場で自らの言葉で示し、第三者委が提案した理事長らにも厳しい意見ができる外部人材を登用するなど改革の具体案も語るべきだ。顔を出さない謝罪はない、と一人で記者会見に臨んだ20歳の日大アメフト部員がしたように。(榊原一生)
日大の田中英寿理事長の声明文(骨子)
【「学生第一」で大学運営】
第三者委員会の最終報告書で「学生ファーストの精神が見失われていた」との指摘について「極めて厳しい指摘。深く反省し、今後の大学運営を行っていく」と記す。同時に「教職員の皆様も、わたくしの決意を受け止め、行動していただきたい」と呼びかける
【悪質タックルを犯した日大選手や関係者に謝罪】
第三者委から「日大選手に口止めをした」と認定された日大の元理事について「いかなる理由があろうとも、断じて許されないこと。二度とあってはならないこと」と断罪
【日大アメフト部への謝罪】
関東学連が出場資格停止処分を解除しなかったことについて「アメフト部の4年生は、最後のプレーをする大切な機会を失うことになった。事態を招いたのは全て我々の責任」と言及
【運動部のガバナンス強化】
「日本大学は多くのやらねばならない課題、宿題をいただいた」と記述。保健体育審議会の組織改革を急ぎ、アメフト部を「強くたくましい、フェアプレーのお手本となるチーム」として再生させる
【引き続き理事長として改革に取り組む】
「耳を大きくし、より広く意見を聞き、自由闊達(かったつ)で開かれた大学を目指す」と記述。「このようなことは二度と繰り返さないことを誓い、この教訓を踏み台に日大再生を進める覚悟」と結ぶ