(8日、高校野球 花咲徳栄8-5鳴門)
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昨夏全国制覇した花咲徳栄(北埼玉)に挑んだ鳴門(徳島)。主将の三浦光翔(こうしょう)君(3年)は一回に先制の適時打を放ち、塁上で右手を突き上げた。手首には黒いリストガードが巻かれていた。
手首を守るそのリストガードは、7月の徳島大会決勝で対戦した生光学園の元主将、月岡大成(たいせい)君(3年)が託したものだ。試合後、涙しながら三浦君に手渡した。「頑張れ」「ありがとう」。熱気が残るグラウンドで短く言葉を交わした。
2人は県西部の同じ小学校出身で、少年野球チームでバッテリーを組んでいた。中学は県内で唯一硬式野球部がある私立の生光学園中に進み、一緒に三遊間を守った。
ただ高校で進路が分かれた。三浦君の父、修一郎さん(41)は鳴門の元エース。当時鳴門は徳島大会を4連覇中で、三浦君は「父がかなえられなかった甲子園出場を目指す」と決めた。そして主将になった。
一方、月岡君は生光学園で主将になった。父の政彦さん(52)も同校野球部OB。同校はまだ春も含め甲子園に出場したことがなく、「僕たちの代で甲子園へ」を合言葉に部員91人を束ねた。
最後の夏、2人は徳島大会決勝で相まみえた。月岡君は笑顔でチームを盛り上げた三浦君に負けたとき、「あいつの方が上だ」と感じた。メンバーに入れなかった3年生2人が大会直前に買ってくれたリストガード。それを渡した。
三浦君は大会前の練習でもずっと身につけた。あいつの思いも背負って、思い切りプレーを――。
九回2死三塁。逆転を祈る三塁側アルプススタンドには夕日がさしていた。打席には三浦君。しかし、見逃し三振で最後の打者になった。歓声とため息がこだまする甲子園の空を見上げた。(三上元)