群馬県の防災ヘリが墜落した事故で、乗員9人全員の死亡が確認された。鉄の塊のような機体、鼻をつく油の臭い。同僚の捜索にあたった消防隊員は凄惨(せいさん)な現場に声を詰まらせた。
ヘリ航跡消え40分後、異変に気づく システム生きず
「隊員に『冷静になれ』とは言えなかった」。捜索にあたった吾妻広域消防本部西部消防署の黒岩賢一副署長(50)は下山後、声を詰まらせながら語った。犠牲になったうちの5人は同本部の職員だった。
11日午前5時過ぎ、警察、消防、自衛隊計約160人が現場に向けて登山を始めた。現場までは本来、2時間はかかる。夜間の荒天もあり危険が予想された。部下や同僚を思う一心で歩を進め、1時間半ほどで現場にたどりついた。
「これがヘリなのか」。あるはずの場所に、ローターは見当たらない。原形をとどめている部分はほとんどなく、鉄の塊のよう。ぬかるんだ斜面に横たわる残骸は、今にも滑り落ちそうだった。上に大木が倒れかかり、漏れ出た燃料の臭いも鼻を刺す。ヘリや倒れかかった木をロープで固定する作業などをして、午後2時過ぎに登山口に戻った。
亡くなった黒岩博さん(42)は西部消防署第1小隊の副隊長。第1小隊長も務める黒岩副署長の直接の部下だ。「明るい人柄で後輩の面倒見が良く、上司からも慕われていました」。必要最低限の資機材で、最大限の効果を生むことを消防職員としての信条にしていたという。塩原英俊さん(42)もこの春まで部下だった。「私が困っていると助言をしてくれた。命令前から率先して動いてくれる優秀な人材だった」
何でも話し合えた田村研さん(47)。消防本部の指揮隊の基礎を作ってくれた水出陽介さん(42)。現場でものを言い合い、改善につなげた蜂須賀雅也さん(43)。仲間一人一人について、かみしめるように語った。
「みんな、一緒に仕事をしました。これからの吾妻消防を背負って立つ人間でした。仲間を亡くし、今は悲しい思いでいっぱいです」と目に涙をためた。(山崎輝史)