今年6月以降、日本を席巻した「半端ない」は、この人が10年以上前から目をつけていた言葉だ。人呼んで「言葉ハンター」は、新しい言葉が生まれていないか、満員電車の女子高生の会話に耳を澄ませ、SNSの片隅のやりとりに目を配る。正しい日本語の総元締のような「辞典」に、なぜそこいらで生まれる新語が必要なのか。 飯間 浩明さん 1967年生まれ。「三省堂国語辞典」編集委員。著書に「辞書を編む」「小説の言葉尻をとらえてみた」「伝わるシンプル文章術」など。 ――「半端ない」は、2014年に改訂した三省堂国語辞典第7版に載っていました。 「『半端ない』を初めて耳にしたのはNHKの漫才番組でした。1990年代に用例がありますが、広まったのは21世紀になってからです。前回の改訂作業のとき、人々の間に定着していると考え項目を立てました」 ――辞書に「新語」は必要ないんじゃないでしょうか。 「新語や新用法こそ必要なんです。例えばいまメールを書くときに辞書を調べようとして、世の中でみんなが使っている言い方や意味、用法が載ってなければ、その辞書は実用的とは言えません。人間が他人と違うことを考えたい、昨日と違うことを考えたいと思う限り、従来の言葉だけでは間に合わず、常に新しい言葉は生まれるのです。辞書は時代を映す鏡であるべきだと思います」 ――新語とか、新しい意味を知らないと不便でしょうか。 「福田康夫元首相が08年8月、北京五輪の選手団を『せいぜい頑張ってください』と激励し、その言い方が論議になりました。『せいぜい』は今は『たかだか』とか『できるだけ』といった否定的なニュアンスですが、福田さんの世代では『十分に』の意味で使われていました。意味の変化を知らないと誤解も生じかねません」 「『総選挙』は本来、衆議院選挙を指しますが、09年にAKB48が使ってから人気投票の意味で広まりました。今や『ご当地キャラ総選挙』のように街中にあふれています。総選挙と聞くと、人気投票を第一に思い浮かべる人が増えているかもしれません」 ――辞書に載せるためには生きた「用例」が必要なのですね。 「用例を常にチェックしています。新しい言葉や従来と違う使われ方はないか、テレビ、新聞、雑誌、SNSなどインターネット、街の看板、人々の会話などあらゆる材料から採集するのです」 ――街の看板も、ですか。 「よく上を向いて街を歩きます。空を眺めるのではなく、看板が気になるからです。常にカメラを持ち歩き、電車の中の広告なんかも撮影します。看板に『立駐』『合説』とあれば、立体駐車場や合同説明会の略語がここまで定着したかと感心し、うどん屋に入れば注文も忘れ『メガ盛り』の表現を見つけて喜んでしまいます」 「日時、場所などのデータを加えて『ことばのアルバム』と呼ぶパソコンのファイルに整理します。年間4千語ぐらいで、改訂作業のときに編集委員会で議論するための材料になります。ただ6、7年に1回の辞書改訂で採用するのは1割にも達しません」 ――辞書に新語が必要なのはわかりましたが、新しい言葉に抵抗感がある人たちも多いのでは。 「そうですね。一昨年に一気に浸透した『ほぼほぼ』は、実は前からある言葉ですが、連載コラムで取り上げると反響が半端なく、大半が『気持ち悪い』など否定派でした。面白かったのは50代の男性から、小学生の娘に『ほぼ』とのニュアンスの違いを聞いたら『ほぼほぼ』しか聞いたことがないと言われた、というお便りがきたことです。そのうち『ほぼ』を古くさい、と感じる人が多くなるかもしれません」 「抵抗感がある言葉は私にもあります。例えば『援助交際』。売春という内実を隠したごまかしに満ちた言葉ですが、次の改訂のときには辞書に載せるべきでしょう。『エンコー』の略語でもこれだけ広く使われていますから」 ――ただ、辞書に多くの人がいちばん期待するのは「正しい意味」ではないでしょうか。 「それはわかりますが、何を正… |
日本語の正誤こだわる社会「辞書も加担」 飯間浩明さん
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