井山裕太名人(29)に張栩九段(38)が挑む「黄金カード」が実現した囲碁名人戦(朝日新聞社主催)。鹿児島市で打たれている第3局で、張九段が「宿泊部屋のスマートフォンを撤去してほしい」と要請する、珍しい一幕があった。2日制のタイトル戦では、電子機器を事前に預ける決まりで、両対局者は通信を遮断された「孤独な夜」を過ごす。 名人が強攻手を連発、囲碁名人戦第3局の詳報はこちら 25日朝。第3局の開始を前に、日本棋院の職員が井山名人と張九段から私有スマホを預かった。会場となっている城山ホテル鹿児島は、宿泊客用に無料で使える観光用スマホが各部屋に据え付けられているが、これも張九段の指摘で取り外された。日本棋院は今後、対局者の宿泊部屋のスマホ撤去を徹底するという。 日本棋院によると、囲碁のタイトル戦の規定は昨年改められ、対局者は対局前から終局まで、スマホやタブレットなどの電子機器を主催者側に預けることになった。対局終了後に返却される。規定で明文化する一方、手荷物検査までは求めておらず、紳士協定の側面もあるといえる。 囲碁ではAI(人工知能)の進化が著しく、プロの多くも普段の研究に活用している。対局中にスマホを用い、AIで手を検討すると、戦況に大きな影響を与えかねない。将棋界で2016年、プロの有力棋士が対局中に将棋ソフトを使ったのではないかと疑いをかけられた事案(その後、第三者調査委員会が「不正証拠なし」と判断)があり、囲碁界でも対応を急ぐ形となった。 碁盤・碁石の部屋への持ち込みは禁じられていないが、トップ棋士であれば頭の中で盤上を幾通りも再現できるため、必携品ではないという。 タイトルをかけた極度の緊張の中、対局者はどんな夜を過ごすのか。 第3局の新聞解説を担当し、本因坊3連覇の実績がある前名人・高尾紳路九段(41)は「寝るのが一番。僕は異質かもしれないが、ビール2、3杯を飲んで風呂に入り、ぼーっとします」と話す。初日の棋譜を部屋に持ち込み、封じ手以降の局面検討もするが、何より緊張をほぐすことを心がけるという。 第3局は26日朝に再開。同日夜までに勝敗が決する見通し。(芹川慎哉) |
観光用スマホまで撤去 トップ棋士が過ごす通信遮断の夜
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