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台風21号が西日本などを襲ってから、4日で1カ月になる。高潮で冠水し、大きな被害を受けた関西空港は、安全管理のあり方や復旧の遅れを指摘されている。管理体制のあり方は今後、全国で進む空港民営化の議論でも課題になる。
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大阪湾に浮かぶ関西空港。3日には495便が発着し、国内有数の拠点空港としての機能を、ほとんど取り戻していた。
「危機が発生したときは、(運営会社だけでなく)できる人間が力を合わせないといけない」。運営会社の関西エアポートが開いた記者会見。山谷(やまや)佳之社長は、混乱の責任の所在について明確にしなかった。
高潮で冠水した関西空港=9月4日、朝日新聞社ヘリから、筋野健太撮影
ちょうど1カ月前の9月4日夕方。空港は修羅場だった。観測史上最大の瞬間風速58・1メートルの暴風雨に見舞われ、高潮で第1ターミナルなどがある島が冠水。停電で照明が消え、空調も停止する中、約8千人の利用者や空港で働く人たちが取り残された。
「(安全のため)ターミナルの外に利用客を絶対に出すな」。山谷社長が携帯電話で指示を出した。当日は関西財界幹部と一緒に上京し、自民党などに陳情活動をしていた。党本部で二階俊博幹事長に面会した山谷社長は「これはえらいことになった」。
混乱は台風が通り過ぎても続いた。大阪市内などに向かうための連絡橋にタンカーが衝突し、道路も鉄道も不通に。結局、バスや高速船での脱出が完了したのは、翌5日の深夜だった。
その日、関西エアポートは運航再開の見通しを打ち出せずにいた。「7日から部分再開できませんか」。山谷社長が国土交通省幹部から告げられ「政府主導」による復旧が決まった。
「(国交省)航空局も(動きが)遅かったのか」。14日、官邸を訪ねたある航空会社の首脳に、菅義偉官房長官が質問した。菅氏は、関空の対応に不満を持っていた。首脳は、関西エアポートの意思決定の遅さが問題だと指摘した。
関空は2016年4月、運営権が、国が100%出資する新関西国際空港会社から関西エアポートに移り「民営化」した。国は、所有は続けるものの、売却収入によって建設時の債務を一掃するめどが立った。民営化後は、国は運営が適切かどうか管理するだけで、直接の安全管理や対策、航空会社との交渉は、すべて関西エアポートが担うことになった。
記者会見する関西エアポートの山谷佳之社長=2018年10月3日、関西空港、坂東慎一郎撮影
だが、地震や津波などの「不可抗力」への備えまで責任があるのか。関西エアポートの歯切れは悪い。山谷社長は「(空港の自然災害対策を話し合う)国交省の委員会の発表を待ちたい」と述べるにとどめた。
今回の混乱の原因に、関西エアポート内のガバナンス(企業統治)の問題を指摘する関係者もいる。同社の筆頭株主は、オリックスと仏空港運営大手のバンシ・エアポートで、株式を4割ずつ持つ。
ところが両社は、民営化直後からぎくしゃくした。とくに、空港の保守・管理についてはバンシに任せるという「不可侵条約」(オリックス幹部)があるという。
関西空港民営化の枠組み
今回の危機では、国交省からの指示が、オリックス出身の山谷社長に日本語で出て、直接指揮を執った。これに、バンシ側の責任者であるエマヌエル・ムノント副社長が不満を募らせ、現場の鈍い動きにつながっていると、関係者は指摘する。被害を検証する関西エアポートの第三者委員会が開かれた3日、ムノント副社長は不在だった。
建設時の負担に苦しむ空港は関空だけではない。国内ではすでに、仙台と高松空港が民営化。新千歳など北海道内の7空港、広島、福岡なども、民営化に向けた準備を進めている。今後、民間企業として利益を追求しつつ、どう安全を確保する体制を整えるか。事前に答えを示すことが、運営者の条件になる。(辻森尚仁、岩沢志気)
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