「ポイントカードはお持ちですか」。そう聞かれると、つい作ってしまう人も多いポイントカード。ポイントがたまれば、お得感もある。でも、うまい話には「裏」もあるようで……。
「自身の情報、意識せず企業に」宮下紘さん(中央大学准教授)
日本は、世界に例を見ないポイントカード大国です。企業は消費者にポイントをあげるかわりに、個人データを収集する。このビジネスモデルが成功した理由は多くの企業が参入し、手軽にポイントをためて、どこでも使えるようになったからです。
店で商品を買う際に店員に氏名、住所、生年月日を教える人はまずいません。でもポイントカードの提示は、教えているのと同じです。消費者は意識しないまま、多くの個人情報を企業に提供しています。例えば、商品の購入履歴などを企業が分析すれば、女性が妊娠しているかどうかがわかり、ベビー服の広告を効果的に送ることができる。これはデータベースマーケティングと呼ばれる手法で、日本社会に広く浸透しています。
利用者が6千万人を超える日本最大級のTポイントカードで集められた個人データは様々な業界の約130社に提供され、マーケティングに活用されています。2015年の個人情報保護法の改正で、企業が個人情報の取り扱いの利用目的を変更しやすくなりました。ただ、データの利用法については企業と消費者で認識のギャップがあります。
各企業は個人データの利用目的や方法をプライバシーポリシーとしてHPで公開していますが、「ライフスタイル提案」など抽象的な文言が多い。一方、膨大な分量のポリシーを読んでいる消費者はほとんどおらず、自分のデータがどう分析されて使われているのか見えにくいのです。
ITの進化に伴い、行動履歴や検索履歴など共有される個人データは増えています。複数の企業で個人データが共有されると、本人すら予測し得ないプロファイリングが行われる恐れがあります。Tポイントカードの共有企業には金融機関やIT企業も名を連ねており、個人の債務返済能力を測る要素として個人データが使われている可能性もあります。不安に思う人はまずHPでどの企業に個人データが提供されているかを確認してみることをお勧めします。
私自身はTポイントカードを使っていませんが、ポイントビジネスを否定はしません。「気味が悪い」と感じるのか。「心地よいおもてなし」と感じるのか。それは個人の受け止め方次第だからです。これだけ普及したのは、ポイントに魅力を感じて「おもてなし」と受け止める日本人が多いからなのでしょう。
プライバシー保護の意識が高いEUでは、消費者が個人情報を管理・確認して持ち運びできるデータ・ポータビリティー権が確立しています。日本のポイントカードでも消費者がデータを管理できるような仕組みを導入すべきです。透明性が高まり、ビジネスとプライバシーの保護の両立が可能になると思います。(聞き手・日浦統)
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専門は憲法、情報法。主な著書に「ビッグデータの支配とプライバシー危機」など。
「『あぶく銭』効果でハッピー。錯覚かも」安田洋祐さん(大阪大学准教授)
ポイントカードは消費者にあまり意識させることなく、買い物における行動を変えていると思います。まず、ポイントをため始めると、「その分安くなるからお得だ」と考え、ほかに同じような店があってもポイントがつく店で買い続けるようになる。店に囲い込まれていくのです。
こうなると、値段に鈍感になり…