文部科学省の高等教育局長らが今年8月、外部に出向中に病死した職員の遺族向けの寄付金をとりまとめるよう、全86カ所の国立大学に文書で依頼していたことが6日、朝日新聞の取材でわかった。同省は交付金などに影響力があり、国立大側からは「あってはならない」との声が上がっている。
当然かのように寄付募る文科省 国立大は今も一家の一員
寄付を依頼したのは、大学教育を所管する高等教育局の義本博司局長や、常盤豊・生涯学習政策局長(当時)、大学生向けの奨学金を取り扱う日本学生支援機構の理事長代理ら上級幹部やOBら20人。
過去に複数の国立大に出向後、放送大学学園に出向中の今春、病気で死去した50代の男性職員の子どもの「教育資金」として、1口千円で募っていた。文書は「各国立大学法人総務担当課長殿」宛てで、「貴機関内に周知いただくとともに、お取りまとめをされる際は機関用申込書を御記入の上、送付願います」と求めていた。事務局を務めた同学園担当者によると、国立大のほか、男性が過去に在籍した複数の独立行政法人にも送った。これまでに200万円以上が集まったという。
申込書は「個人用」と「機関用」があり、個人用には振り込み用のゆうちょ銀行口座や現金書留の送り先が記され、機関用には所属と氏名、口数、とりまとめた合計金額を記入する欄がある。
官公庁や教育界では、在職中に死亡した同僚の遺児向けに「育英資金」を内輪で集める慣習が100年ほど前からあるとみられる。だが今回は、学部設置の認可や交付金などを握る部署の上級幹部らが、連名で外部組織に依頼していた。
ある国立大の教員は「監督者からのこうした依頼は問題だ」と指摘。国立大学協会会長を務める山極寿一・京都大総長は「文科省から公的なルートで(寄付を)依頼されれば、何かしらの権力関係が反映していると考えるのが普通。あってはならない」と批判している。
義本局長は取材に、「高等教育局長という立場だから、大学に関係するので(寄付の依頼を)『手伝ってほしい』という話があった」とし、詳細は「全然知らない」と話した。
国立大は2004年の法人化で文科省から「独立」したが、人事交流の制度は残っている。政策や交付金などの情報を得るため、文科省の職員を受け入れることは大学側にメリットがある一方、「文科省にお伺いを立てる仕組みを生んだ」との指摘もある。
全国市民オンブズマン連絡会議事務局長の新海聡弁護士は、今回の依頼について「直ちに違法とは言えないと思うが、(政府がするべき職務にのみ従事する)職務専念義務や職務に対する国民の信頼という点では疑問がある。『監督者』と『被監督者』という関係を意識すれば、公務の適法さに対する誤解を招く行為ではないか」と話している。(松尾一郎、小宮山亮磨)