2020年東京五輪の聖火リレーのルート選びに、都道府県の担当者が頭を悩ませている。1964年の東京大会と比べて、走る距離が大幅に短縮される見通しだからだ。リレーを誘致して地元をアピールしたい市町村の要望をどうかなえるか。スタートの号砲まで12日であと500日。各地で難しい調整が続く。
大会組織委員会が47都道府県にルートの選考を要請したのは7月。年内の取りまとめをめざし、各地で実行委員会ができた。
富山県の石井隆一知事が地元実行委の8月下旬の初会合で「聖火の輝きを全市町村に届け、大会を盛り上げたい」と述べたように、聖火を県内くまなく回したいと考える自治体は多い。
64年の前回大会は、全行程6755キロを10万人余(伴走者を含む)が1キロ5分のペースで走破し、聖火をつないだ。これに対して、20年大会は3月26日から121日間、1万人程度がそれぞれ、約200メートルをゆっくり走る。その距離は計算上、約2千キロで短い。
さらに、大会組織委が開催地の東京都や東日本大震災の被災3県を除く多くの道府県に割り当てた日数は2日間。大半は車などで聖火を移動させる想定で、多くの県の担当者は「全市町村を走るのは物理的に不可能」とみる。
前回大会で聖火リレーのスタート地点になった沖縄県が悩むのは、ルートに離島を入れられるかだ。宮古島や八重山諸島の5市町村がつくる市町村会は今月5日、知事に離島も回るよう要望。県の担当者は「時間的な制約があるなか、どういう手法がとれるのか検討したい」と話す。
最長の15日間が割り当てられた東京都。島嶼(とうしょ)部を含む全62区市町村を走らせる方針だが、担当者は「不公平感なく回るにはどんなルートにしたらいいか悩ましい」と明かす。既存の航路や空路で、伊豆諸島や小笠原諸島を回るには時間が足りない。聖火リレーの隊列に必要な車両の運搬も課題で、都は自衛隊に協力を求め、協議中だ。
「復興五輪」を掲げる今大会で、リレーの出発地点になる福島県は、事情が複雑だ。東京電力福島第一原発事故で、沿岸部の一部は立ち入りが制限されている。「わがまちを出発地点に」と県に内々に要望した自治体もあるが、ある担当者は「復興をアピールしたいが、復興事業そのものでは他の市町村と足並みをそろえている。表立って飛び抜けた動きはしづらい」。
千葉県は10月、聖火が「写真映え」する名所を県民にアンケートした。「何も工夫しなければ、ここが千葉なのか、どこなのか、わかってもらえないでしょう?」と担当者。予想を超える約1万7千件の声を元に、ルートを検討中だ。
人口約700人の山梨県小菅村はルートから外れる可能性を念頭に、村民による独自のリレー開催を準備している。大菩薩峠の頂上で採火し、子どもからお年寄りまで全村民がそれぞれに合った距離を走り、聖火をつなぐ計画を描く。トーチも本物に近いものを用意する。
発案した舩木直美(ふなきなおよし)村長(61)は64年大会の感激が忘れられない。「村の子どもたちに、東京五輪に参加できたという思い出を残してあげたい」と語る。遅くとも新年度当初予算案に関連経費を盛り込み、実行委をつくる予定だ。
■課題は膨らむ…