ステーキや焼き肉、フレンチといった高級グルメを一人でも手軽に楽しめる飲食店が広がっている。店の回転率を上げて来店客を増やすことで、手頃な値段に抑える戦略だ。人気を博してきた立ち食いのスタイルにも変化が生じている。
東京・新橋に8月にできた「焼肉(やきにく)ライク」。ランチ時間の開店前から行列ができ、店内では会社員らが黙々と「一人焼き肉」を楽しむ。1人1台のロースターが置かれ、仕切り板でほかの客の視線も気にならない。食事は注文から3分以内に出てきて、1人の滞在時間は平均約25分だ。パートの女性(47)は「高級な焼き肉店は頻繁には行けないが、この店は高くない。肉は筋が少なくて品質がいい」と話す。
同店は「牛角」創業者が経営するダイニングイノベーション(東京)が始め、「焼き肉のファストフード」がコンセプト。酒のつまみになるようなメニューは少なく、高い回転率で売り上げを伸ばしている。
一般に飲食店の原価率(売り上げに占める食材費の割合)は3割ほどだが、同店では米国産牛肉の原価率は約45%、国産牛肉の原価率は50%以上という。「コスパの良い肉」が売りで、「カルビ&ハラミセット」(税抜き1210円)が人気だという。担当者は「一般の店では、この値段では出せない。気軽に焼き肉を楽しみたいという需要に応える」と言う。都内の繁華街を中心に出店を加速させる方針だ。
高級グルメを店の回転率を上げて手軽な価格で提供するビジネスモデルは、東京・銀座などの繁華街でフレンチやイタリアンを提供する「俺の」(東京)が人気を呼んだ。高級な食パンを出すベーカリーとカフェを併設した業態も好調で、地方都市への展開も視野に入れる。
ステーキ店「いきなり!ステーキ」も店舗を拡大している。今月30日には秋田県に出店する予定で、初出店から約5年で47都道府県に約340店を展開する。一般のステーキ店とは違い、前菜などのメニュー数を絞り込み、ステーキを「いきなり」提供することで、客の滞在時間は短い。原価率は5割以上で、値段のわりに品質の良いステーキが食べられると評判だ。運営するペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は「普段づかいのステーキ店として気軽に使ってもらっている」という。
ただ、そんな「いきなり!ステーキ」も店舗運営には若干の修正を迫られている。
もともとは立ち食いがメインだったが、椅子を置く店舗が大半になった。既存店の客数は前年に比べ減少か横ばいが続いており、高齢者や子ども連れの利用を増やしたい考えだ。(長橋亮文)