三井物産は29日、マレーシアに本拠を置くアジア最大の民間病院グループIHH社に約2300億円を追加出資すると発表した。出資比率は32・9%となり、筆頭株主になる。経済成長に伴って増える生活習慣病などのアジアの医療ニーズを取り込んで、ヘルスケア関連事業を強化する。
IHH社はシンガポールやマレーシア、トルコ、インドなど9カ国で主に富裕層向けの50の病院(計約1万2千床)を展開する。三井物産は安定収益を得るための「非資源事業」の一つに位置づけ、11年に出資を開始。病院運営のノウハウを学ぶとともに、トルコやインド、中国、ミャンマーなどIHHの進出先の拡大を支援してきた。経営面でさらに関与を強める考えだ。
ヘルスケアは三井物産が注力する中核事業の一つだ。2011年にIHH社に出資する前に、社内で分散していた関連事業をまとめて担当部署を新設。大手商社としてアジアで先陣を切る形で布石を打った。国内の糖尿病検査器大手や米国の透析治療会社を買収し、中間層向け巨大病院グループのコロンビアアジア社に出資を始めるなど、ビジネスの幅を広げてきた。
今後はIHH傘下の病院に関与する機会も増やし、欧米や日本の医療に関する新しいビジネスモデルを導入したり、9カ国で受け入れる外来患者600万人、入院患者60万人のデータなどを全社で活用できる仕組みを構築したりして、アジア各国の医療の効率化や高度化に貢献する考えだ。
コロンビアアジア社についても今年3月、筆頭株主の創業家に並ぶ出資比率に引き上げた。アジアの富裕層だけでなく、中間層の医療ニーズも取り込む基盤を固めつつある。
三井物産ヘルスケア・サービス事業本部の永冨公治本部長は「アジアのヘルスケア市場は人口の増加や高齢化で年率10%伸びる一方、病床数などが圧倒的に不足している。様々な周辺事業を含めたビジネスの構築や展開を進めたい」と話す。
病床数や質で課題を抱える地域が多いアジアの医療には、他の大手商社も熱いまなざしを向けている。伊藤忠商事は病院グループを傘下に持つ華僑財閥などと組んで、東南アジアや中国で広く展開する予定。三菱商事はミャンマー、双日はトルコで病院運営を計画する。豊田通商もインドで病院を運営し、インドネシアで臨床検査を始めている。(鳴澤大)