名古屋の街のシンボル「名古屋テレビ塔」(名古屋テレビ塔株式会社)が、最新の技術をちりばめた「未来のタワー」に全面リニューアル――。
名古屋駅、変わりゆく街
そんな計画が明らかになって約5カ月。2019年1月7日から営業を休み、2020年7月に再びオープンする。塔内部に超高級ホテルをつくる計画で、地元で長年親しまれてきた「テレビ塔」の名前を変えることもまじめに検討されている。名古屋の繁華街、栄地区のランドマークは、どこに向かうのか。
「えっ! この中にホテル?」
12月14日。テレビ塔を長男と訪れた岐阜県郡上市の会社員男性(42)は思わず声を上げた。
子どものころ、母親と名古屋に買い物に来ると決まって立ち寄った。「休業することも知らなかった」と驚いていた。
展望台からの景色を眺めていた愛知県清須市の主婦早川佳代子さん(51)は「テレビ塔は、展望台くらいしかない印象。だから、テナントが充実することは楽しみです」と話した。
収入減の危機
名古屋テレビ塔の歴史は、東京タワーより古い。開業は1954年の6月。開業当初は年間100万人前後を集めたが、その後は減少傾向が続く。2004年度には18万人まで落ち込んだ。やや持ち直したが、地上デジタル放送への移行(2011年)が大きな逆風となった。
テレビ塔が「電波塔」の役割を終えたため、放送関連設備を置くスペースを、テレビ局に貸して得られる収入が丸ごとなくなってしまった。
これがあったころは収入全体の3割を占めていた。「なくなったら、やっていけない」(運営会社の大沢和宏社長)割合だ。
塔を存続させるには、事業の方向性を大きく変える必要が生じた。
ただ、放送関連の設備が撤去された空きスペースを飲食店などにするには、法律での扱いが変わるため、大規模な耐震工事が必要だった。
費用がネックとなって、その実現には10年以上もかかった。
全面的なリニューアルを発表した今年7月。「やっと、この日が来たかというのが実感」。大沢社長は、第一声でそう語った。
5階はスイートルーム
外観は、ほぼこれまで通りにとどめる。かつて放送設備が置かれた2、3階はレストランやカフェにする予定で、4、5階に超高級ホテルが入る。計画では、4階は13室、5階にはスイートルームが1室できる。
リニューアル後のコンセプトは「未来のタワー」。仮想現実(VR)でコンサートを体験するコーナーをつくるなど、新たな技術を駆使するという。
さらに、久屋大通公園に面している1階には、スポーツなどのパブリックビューイングができるカフェをつくり、人が集まる環境を整える。
名前も変わる?
変わるのは、建物だけではない。
名古屋の人たちに愛されてきた「テレビ塔」という名前を変えることもありそうだ。「電波塔」としての役割がなくなったためだ。
「テレビ塔という名前は変えた方がいいという人、残した方がいいという人の両方がいる。名前はいまの段階で確定していない」(運営会社役員)という。
テレビ塔に来ていた客にリニューアルについて聞いたところ、多くは好意的な意見だった。
鉄骨むき出しの展望台やレストラン。昭和の時代を感じさせる、記念メダルや双眼鏡などのサービス。「洗練されたビルが増える中、こういう良い意味での古くささもいい」。東京都狛江市の佐野淳一さん(46)のような声もある。
周囲に高い建物がほとんどなかったころ、名古屋の繁華街の中心に建てられたテレビ塔。役割を少しずつ変えながら、名古屋のランドマークとしての姿をなお探っている。(友田雄大)