平尾剛の知って楽しむラグビー学
ラグビーワールドカップ2019
ポゼッションラグビーが日本の道 元代表が見た国際試合
ラグビーW杯日本開催を2019年に控え、歴史や背景も踏まえた楽しみ方を伝えるコラムの筆者、平尾剛さん(43)は、元日本代表で神戸製鋼でもプレーしました。15日、15季ぶりのトップリーグ優勝、18季ぶりの日本選手権制覇を果たした古巣の復活を喜ぶとともに、世界的名選手ダン・カーター以外の選手にも目を向けています。
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神戸製鋼が前回トップリーグを制した03年度、まだ私は現役選手だった。あれから15年。引退後も古巣を案じ、ともにプレーした選手が次々と引退してからもずっと試合を観(み)てきたが、ようやく勝ち切った。しかも圧倒的な強さで。
サントリーを下した決勝のスコアは55―5。ノーホイッスルトライを皮切りに8トライを積み上げ、インターセプトから奪われた1トライのみに抑えた。相手のゲイン(前進)を許さず、すきあらばボールを奪い返す攻撃的なディフェンスは秀逸だった。
世界的な名選手ダン・カーターについ目が行きがちだが、この試合は誰がMVPでもおかしくないほど、メンバー全員が渾然一体(こんぜんいったい)となってプレーしていた。強いて挙げれば日和佐篤だろう。ブレークダウン(タックル後のボール争奪戦)からの素早い球出しで、攻撃のリズムを効果的に作り出していた。
勝因はなんといっても「細かなパスをつなぐアタック」だ。FW同士がディフェンスラインにギリギリまで接近してパスをつなぐ。タックルされながらもパスを試みる。そうすると相手ディフェンスは的を絞りにくくなる。相手の出足を挫(くじ)けばフェーズ(密集からボールを出して攻撃する回数)を重ねるたびに相手ゴールに近づくので、トライチャンスが生まれる。
それにしてもボールがよく動くオモシロい試合だった。イージーミスがなく、なによりキックが少ない。自陣からでも積極果敢に攻めるこの戦い方に、私は既視感を覚えた。この「継続ラグビー」は、神戸製鋼がかつて体現していたスタイルだった。
やはりラグビーは蹴り合うのではなくつなぎ合うスポーツだ。ノックオンなどのミスがつきまとうパスプレーにはリスクが伴うが、それを厭(いと)わずトライを狙うプレーこそ観る者の心を打つ。
強い神戸製鋼が帰ってきた。万感の思いが胸に迫る。
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ひらお・つよし 1975年生まれ。大阪府寝屋川市出身。ラグビー元日本代表。同志社大、神戸製鋼などでFB(フルバック)、WTB(ウイング)としてプレー。神戸親和女子大准教授。