あのルーティンは「進化」を遂げていた。ラグビー・ヤマハ発動機のFB五郎丸歩(32)がゴールを狙う前、心を整えるために欠かさず続けてきた動作のことだ。チームは8日のトップリーグ順位決定トーナメント準決勝でサントリーに敗れたが、五郎丸のキックは相変わらずさえていた。ルーティンはどう変わったのか?
ラグビーワールドカップ2019
サントリー戦、3点を追う後半最後のプレー。五郎丸が正面からPGを狙った。後ろに3歩、左に2歩分移動し、両腕を軽く背中の方に引いて胸を反らせるまでは以前とほぼ同じ。そこからが違った。
欧州挑戦が契機
2015年ワールドカップ(W杯)でブームを呼び、「五郎丸ポーズ」が流行語大賞にもノミネートされた拝むような例のしぐさは消えていた。代わりに両足の付け根あたりに腕を置いて深呼吸。斜めに上げた左腕に向け、自然体で右足を振り抜くと、PGはきれいに決まり、試合は延長戦にもつれ込んだ。
新たなルーティンは、昨年夏まで所属した欧州屈指の強豪・トゥーロン(フランス)でつくり上げたもの。定位置を争った世界屈指のキッカー、ハーフペニー(ウェールズ)からも助言を受けた。より高いレベルをめざす五郎丸のフィーリングに合った。
あのW杯以来、日本代表からは遠ざかる。確かにボールを持っての突破は減った。それでも、08年のヤマハ加入時から五郎丸を見守るスタッフは「いい意味で肩の力が抜けている」とみる。特にメンタル面の円熟を感じるという。シンプルに研ぎ澄まされていくルーティンのように。
レギュラーを保障されず、キッカーも任せてもらえなかった20歳代前半。いら立ちを抑えきれずラフプレーに走ることがあった。代表に定着した12年から15年W杯までは、国際舞台の重圧との戦い。ヤマハに戻っても、自分のことで精いっぱいな雰囲気があった。
オーストラリア、フランスへの移籍を経たいま、新加入の外国選手や若手に進んで話しかける五郎丸の姿がある。試合になれば失点後、「集まろう」と円陣を促して切り替えを図る。メディアと接する時も、自ら冗談を言って場を和ませる気づかいを忘れない。
決勝進出を逃したサントリー戦後、取材エリアで二重、三重の輪に囲まれた。けが上がりの体調について質問されると、こう答えて笑わせた。「バッチリです。年齢以外は」
後輩にエール
延長戦での敗因は、25歳の新鋭SO清原のミスキックだった。「勝つために外国選手をSOに起用するチームが多い中、彼には日本人のプライドを持ち続けてほしい。この経験を生かし、日本を代表するSOになってほしい」。7歳下の後輩へ、優しさに包んだ叱咤(しった)激励を送った。
ヤマハは15日、トヨタ自動車との3位決定戦に臨む。(中川文如)