スキー・ジャンプ界のレジェンド、46歳の葛西紀明(土屋ホーム)が2月開幕の世界選手権(オーストリア)出場へ、赤信号に近い大ピンチに追い込まれている。2016年にギネス世界記録に認定された史上最多出場(現在13回、代表選出は同14回)を誇るが、今季はワールドカップ(W杯)で振るわない。5枠の日本代表を決める今月末までに大逆転でアピールできるか。
W杯の第13戦を終え、葛西の総合得点はわずかに1。得点は1位の100点から30位の1点まで与えられるが、12月の第7戦で30位に入ったのが唯一の得点だ。63人いる得点獲得者の中で最下位に沈み、所属先の後輩で9勝している22歳の小林陵侑が1092点で総合首位に立つのとは対照的だ。
今季は夏場から調子が狂ったままだ。世界のライバルから時速1キロほど劣っていた助走速度を上げようと試行錯誤したものの、安定した助走姿勢をつかめていない。「飛べていないのはアプローチを変えたことによる、(踏み切り時にずれて力をロスする)スリップ状態が続いているからだと分かっている」。ただ、なかなか修正できないのがジャンプ競技の習い。百戦錬磨の経験から課題が明確なだけに、開幕前からもどかしげだった。
日本代表には、今月26、27日にあるW杯札幌大会を終えた時点での総合得点上位5人が選ばれる。今季は小林陵のほか、佐藤幸椰(ゆきや)(雪印メグミルク)が台頭。葛西は6番目で、このままでは落選する。
代表決定まで残るは3試合。頼れるのはジャンプ人生を支えてきた負けず嫌いの性格だろう。子ども時代は貧苦から抜け出すためにジャンプに光を見いだし、1998年長野五輪では団体金メダルのメンバーになれなかった悔しさから、人一倍節制して金メダルを欲してきた。2014年ソチ五輪では個人ラージヒルで銀、団体で銅の二つのメダルを獲得し、18年平昌五輪では冬季五輪史上最多の8大会連続出場。まな弟子の小林陵の爆発的な勝利には喜びの半面、プライドが刺激されているだろう。
世界選手権は平成元年の89年フィンランド・ラハティ大会に初出場し、03年のイタリア・バルディフィエメ大会で二つの個人銅メダルを獲得した。平成最後となるオーストリア・ゼーフェルト大会出場へ、綱渡りの日々となる。(記録は15日時点)(笠井正基)