来月から本格化する春闘で、労働組合の「ベースアップ(ベア)」重視の姿勢が薄らぎそうだ。トヨタ自動車など大手企業の労働組合は中小企業や非正規社員の待遇アップを理由にあげるが、かえって社会全体の賃上げの流れにストップをかけかねないとの指摘もある。
トヨタ自動車労組(組合員6万9千人)は28日、今春闘でベア要求に具体額を盛り込まない案を固めた。正社員、非正社員を問わず定期昇給や福利厚生の充実などを含めて組合員平均で月1万2千円の増額を求める。ベア自体は6年連続で求めるが具体的な要求額は示さない、という判断だ。
一時金(賞与)の要求は前年より0・1カ月分多い年6・7カ月分とした。
背景の一つには、18年春闘で経営側の回答方法が変わったことがある。前回は「月額3千円増」のベア要求に経営側は直接答えず、定期昇給や手当なども含めた賃上げ幅を回答。労組はベアについて「前年を超える」と確認し、この回答を受け入れた。
この動きは波紋を呼んだ。春闘の先導役とされてきたトヨタのベア額が公表されないと、多くの企業が交渉の目安を失うからだ。だが、トヨタ経営側は中小部品メーカーとの賃金格差を縮める目的を強調した。トヨタのベア額に縛られてきた中小が大幅な賃上げをしやすくなるとの論理だ。
トヨタ労組の西野勝義委員長も、28日の会見で「ベアだけに焦点が当たった交渉では格差は縮まらない」と力説した。
関係者によると、「自動車産業は100年に1度の大変革期」(豊田章男社長)とのトヨタ経営陣の訴えに共感する組合員は多い。労組内では将来が不安な若手を中心に「ベアを要求できる時代か」との声も上がるという。
ただ、トヨタ労組もベア非開示が「悪用」され、取引先などが消極的な回答の口実に使うのを恐れる。要求案には「社会全体の賃金格差の拡大防止や賃金水準の底上げに寄与していく」と自らの影響力を意識した文言も盛り込んだ。
NTT労組(同15万5千人)…