奥三河と隣接する愛知県岡崎市の旧額田町。町の面積の9割近くが山林だ。この地域は、岡崎市の重要な水がめでもある。美しい湧き水を求め、市内外から人びとが訪れる場所がある。
秘境の湧水群
岡崎市中心部から南東へ直線距離で約18キロの旧額田町鳥川地域。国道1号や県道を車で約1時間走ると、曲がりくねった山あいの道の途中に、3台の乗用車が止まっていた。
お目当ては、道から山に入ってすぐのところにある湧き水だ。「延命水」と名付けられ、市内外から訪れる。23リットル用のポリタンク二つや、2リットルのペットボトルを十数本持ってくる人もいた。
同県西尾市から夫婦で来た会社員加藤正治さん(65)は、2週間に1回ほどのペースでくみに来るという。数年前にテレビで額田の湧き水のことを知り、訪れるようになった。「他の町の水と比べて、やわらかいですね」。自宅の水道水は洗い物をするときに使い、料理やお茶をいれる時などはここの水を使う。
旧額田町は岡崎市の東側を占め、新城市や豊田市と接する。豊かな水をたたえ、所々で湧き水が出ている。軟水で飲みやすいことが特徴だ。
鳥川地域には「延命水」以外にも、「庚申(こうしん)の水」や「産湯の滝」といった湧き水スポットが点在する。これらは、「鳥川ホタルの里湧水(ゆうすい)群」として2008年、環境省の「平成の名水百選」に選ばれた。水質のほか、地域住民による熱心な環境保全活動が評価された。
16年には、1985年に選定された昭和の「名水百選」と合わせた200カ所の中から、環境省が実施したインターネットによる人気投票で「秘境地としてすばらしい『名水』」部門1位に輝いた。
額田の湧き水は、岡崎市民の水…