国内最大の野草の草原がある熊本県阿蘇地域を、全国への茅(かや)の一大供給地に――。そんな構想の実現に、阿蘇の関係者と京都の茅葺(かやぶ)き職人が動き始めた。全国的に不足している茅葺き屋根の材料として、阿蘇のススキやチガヤなどの茅を供給し、伝統文化と草原、両方の保全を狙う試みだ。
昨年12月、阿蘇市東部の外輪山上の草原を京都府の茅葺き職人、中野誠さん(50)が訪れた。風に揺れる一面の茅を指して言った。「宝の山ですよ」
阿蘇では毎年春、草原に残る枯れ草を燃やす野焼きが住民の手で続けられてきた。牛や馬が食べる若草の芽吹きを助け、やぶになるのを防ぐ。茅が優勢な場所では他の草の混入を防ぎ、毎年新しい茅が元気に成長するのを助けてきた。
その野焼きを支援しているボランティア数人が今回、人の背丈以上の茅を刈り、出荷向けの束ね方を中野さんに教わった。曲がった茅を取り除き、職人がほどきやすいように縛る。ボランティアの1人が「今までは焼いてもったいなかったなあ」と言うと、中野さんが「残っているのは野焼きのお陰です」と答えた。
調達悩みの種
中野さんの地元は京都府南丹市美山町の北地区。約40棟の茅葺き民家が連なり国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。20代前半で地域の伝統の価値に目覚め茅葺きを学んだ。今では職人12人を雇い、地元の民家や全国の文化財の屋根を年30軒ほど手がける。
茅の調達はいつも悩みの種だった。昔は各地にススキなどが茂る里山があったが、経済成長の中で造林などが進み、多くが消滅。関西以外に範囲を広げて集めても足りず、30年に1度の葺き替えを待ってもらったり、一部にとどめたりしてしのいできた。
一方、阿蘇には野草の草原が約…