「豚(とん)コレラ」の感染が5府県に拡大しているが、それ以上に養豚家が恐れる家畜伝染病がある。「アフリカ豚コレラ(ASF)」。名前と症状は似ているが、有効なワクチンは存在しない。まだ日本には侵入していないが、脅威は忍び寄りつつある。
「一つの点が、あっという間に面になった」。養豚家がそう漏らすのは、中国でのASFの広がり方だ。
ロシアや欧州で発生していたASFが、アジアで初めて確認されたのは、昨年8月。中国東北部・遼寧省の農場でのことだった。国際獣疫事務局への報告によると、47頭が死に、農場周辺や関係先の1万9千頭超を殺処分。一帯を消毒し蔓延(まんえん)防止策が取られた。
だが、約半年で少なくとも25省市区の122カ所に感染が拡大。殺処分は91万頭以上にのぼる。今年1月には北隣のモンゴルの農場でもASFの発生が確認され、広がっている。
「一度日本に入ってしまえば、とんでもない打撃になる」と、日本養豚協会の香川雅彦会長は懸念する。宮崎県で畜産会社を営み、2010年の口蹄疫(こうていえき)では全頭殺処分のつらさを味わった。「殺処分の痛手はもちろん、事業再開までに相当な時間がかかるだろう。地域の食肉処理場や飼料関連の業界、物流業者まで影響を受けるのではないか」
ASFは、豚コレラと同様、豚…