英国の欧州連合(EU)からの離脱をめぐる混乱が、英国に拠点を置く日系企業の戦略の見直しにつながっている。新規雇用の計画も見直され、地域の住民に将来の不安が広がっている。その現場を訪れた。(サンダーランド=下司佳代子、ロンドン=寺西和男)
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EU離脱を巡る混迷は、地域経済にも影を落とす。
英中部サンダーランドは2016年の国民投票で、61%が「離脱」を支持した。「EUに払っているお金が英国に使われれば、町がよくなるはず」という声は今も多く聞かれる。
その街に今月3日、衝撃が走った。英国最大の自動車組み立て工場を持つ日産が、スポーツ用多目的車(SUV)「エクストレイル」の次期モデルの生産撤回を発表したからだ。
「ニュースを聞いたときは混乱した。だけど、工場の管理者が心配するなと言う。信じるしかない」。胸に「NISSAN」のロゴがついたトレーナー姿のキーロンさん(26)は語った。ディーゼル車の需要が予測より少なくなりそうなうえ、日本とEUの経済連携協定が1日に発効し、日本からの輸出の方が割安になるからだ、と工場では説明されたという。
日産がサンダーランドで生産を始めたのは、1986年。かつて地域経済を支えた造船業や炭鉱業が衰退し、寂れた町の「救世主」となった。「給料もいいし、この辺りでこれ以上の仕事はない」と、キーロンさんは話す。
日産や英政府の説明によると、2車種の次期モデルの生産で予定された約740人の追加雇用計画は見直されるが、今の約7千人の雇用は維持するという。だが、離脱を巡る混乱が続けば日産が逃げ出さないか、との不安の声が上がる。
英政府は生産撤回の話が出た際、国民投票で離脱が決まった4カ月後に、日産に8千万ポンド(現在の為替レートで約113億円)の支援を書面で約束し、エクストレイルなどの英国生産を求めていたことを明かした。
金額は後に6100万ポンド(同約86億円)に減額されたが、支援が日産の投資決定の決め手だったとみられる。支援を約束されてもなお、日産が生産撤回を決めた背景には、離脱の行方が見通せないことへの懸念があったのだろうとの見方は、地元でも強い。
パートナーが工場で働くというスティーブン・オブライアンさん(28)は「日産はいずれ投資を減らし、解雇も始まるだろう。影響は関連産業で働く3万人にも広がる」と話す。
日産の工場の隣接地には、国や市などが協力して先端技術を生かした製造業の集積地「国際先端製造パーク(IAMP)」をつくる計画が進む。5千人以上の雇用増をもくろむ。
だが、保守党の市議会議員ピーター・ウッドさん(75)は「日産が計画を変更するなら、IAMPの成功にも疑問符がつく」と心配している。
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