岐阜県高山市の介護老人保健施設「それいゆ」で2017年夏、入所者5人が相次いで死傷した事件で、母親の中江幸子さん(当時87)を亡くした長男の茂廣さん(68)は、今も悔しさと後悔で胸が締め付けられる思いだという。
「『ありがとう』『すまんかったな』と言おうと思っても、もう伝えることができん」。茂廣さんは今月、朝日新聞の取材にこう答えた。17年夏、施設に入所中の母親が亡くなった。施設側の説明で肋骨(ろっこつ)が折れていることを知ったが、原因などの説明は聞かされなかった。
幸子さんは同市出身で、20歳を前に農家の父と結婚。米や野菜づくりのほか、肉用牛の飼育を手がけながら長男の茂廣さんらを育てた。豪雪地帯で一晩に雪が1メートル近く降り積もるが、冬でも夫婦で薪にする木を切りに山に出かけていった。「本当に働き者だった。文句も言わず、てきぱきと仕事や家事をしていた」。寡黙な性格で、趣味らしい趣味はなかったが、「演歌が好きで、声がきれいだった」と語った。
家業を継いだ茂廣さんを支えて…