初の校歌を歌うと、選手はアルプススタンドに向かって笑顔で駆けだした。選抜大会に初出場した筑陽学園は26日の初戦で、福知山成美(京都)を3―2で下した。一時は逆転されたが、終盤に勝ち越し、春夏通じて甲子園初勝利をつかんだ。2回戦は29日、第3試合で強打の山梨学院と対戦する。
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4人きょうだい養う母に恩返し
筑陽学園が誇る快足が試合の流れを引き寄せた。
福知山成美に逆転を許した四回2死二塁、走者の石川湧喜君(3年)は、大きくリードを広げ、投手の足が上がった瞬間、三塁に向けて走り出した。「牽制(けんせい)はこない。自信があった」
50メートル6・1秒の俊足。特に、甲子園の土はスパイクによくかかり、走りやすかった。三盗を決め、後続の適時打で生還。チームはすぐに同点に追いついた。「ぎりぎりの試合の1点に貢献できてうれしかった」
足の速さと打球方向の予測の良さから、中堅の守備では、「気づいたらボールの落下点にいる」(江原佑哉主将)。チームメートから「忍者」と呼ばれ、この日も、右へ左へと全力疾走、広範囲をカバーしてピンチの芽を摘んだ。
小学校から続ける野球だが、高1の秋まで守備は苦手だった。ほかの選手がバッティング練習に打ち込む間も、コーチに声をかけて1人ノックしてもらい、苦手を得意に変えた。
もともと筑陽学園に進む気はなかった。4人きょうだいの上から2人目。母の理映子(りえこ)さん(41)は1人で働きながら子どもを養っていた。「どこでも野球ができればいい」
だが、理映子さんは「自分の好きなことをやりなさい」と強豪校への進学を応援してくれた。少しでも負担を減らそうと、先輩から練習着をもらったり、支出を節約したりしてきた。
「野球で恩返しがしたい」。この日、躍動する石川君の姿を、理映子さんは娘の風邪のため球場で見ることはできなかった。テレビで見守り、「ずっと目指していた甲子園。よくがんばったねと言いたい」と喜んだ。
2回戦は球場で応援する予定だ。石川君は「今度はヒットを打つところを見せたい」と意気込んでいる。(木下広大)