小田原城址(じょうし)公園(神奈川)から朝日新聞東京本社(東京・築地)まで100キロを歩く「東京エクストリームウォーク100」が6月1、2日に初めて開催される。100キロという“究極”の距離を歩く大会とはどんなものか。これまで100キロウォークを何度も完歩した経験を持つ宮崎暁子さん(45)にその魅力などを聞いた。
宮崎暁子さん「完歩する気持ちを」
ナレーターや司会者として活躍している宮崎さんは、毎年秋に福岡、大分で開催される行橋~別府100キロウォークに参加している。
きっかけは北九州市に住んでいた2003年、大会を支えるボランティアとして参加したこと。ゴールをめざしてひたすら歩く人々の姿に「じわじわと涙が出た」。半年後に開かれた参加者による懇親会の司会を務めた時、冗談半分で「次は参加します」と言ったところ、会場が沸き、「引くに引けなくなった」という。
大雨の中で開かれた04年大会。15キロを超えて、早くも靴擦れで足が痛み出した。「練習もさほどしないで臨みました。完全に100キロを甘くみていました」
60キロを超えた大分県宇佐市のチェックポイントでスタートからの制限時間をオーバーしていた。ベテラン3人に付き添われて続けることができた。
何とか100キロを完歩。30時間25分かかった。「最後は自分の足だか何だか分からなくなった。完歩して、これまで支えてきてくれた人たちに対して心の底からありがたい、という気持ちが芽生えた」
翌年からはしっかりと練習を積んだ。大会前には、家の周辺を毎日5~8キロ歩くようにしている。これまで12回、完歩した。
「100キロを歩けば、これに勝る体力的に苦しいことはあり得ない。何があっても大丈夫。年に1度、100キロウォークというワクチンを打ってもらっているようなものです」
100キロを歩くということは「自分との戦い」と言う。「リタイアしたい気持ちを抑え、完歩するという強い意志をもって自分と向き合う時間です」
事前準備や当日の注意点は
100キロウォークに参加するにあたって注意すべき点を宮崎さんに聞いた。
①まずは練習
100キロは練習せずに歩ける距離ではない。まずは日常生活にウォーキングを組み込むことが大事。公共交通機関やマイカーの利用を控えて、歩いてみる。大会前に40キロ以上の練習を数回した方がよい
②自分に合った道具を
人によって、軽いランニングシューズが適していたり、しっかりとした合成皮革の靴がよかったりする。自分に合った靴、靴下、ウェア、リュックサックなどは、練習を重ねて分かる。マメ防止のため、靴下は一般的に分厚いものがよい
③コースをよく知る
コースの地理を入念に下調べする。100キロの完歩率は天候にもよるが5~7割くらい。ゴールからかなり手前でリタイアすることもあるので、帰宅までの交通機関をシミュレーションしておくことが大事
④当日の荷物
夜を徹して歩くためにヘッドライトは必携。眠気防止の対策も入念に。そのほか、雨や寒さをしのぐウィンドブレーカーや予備のシャツ、靴下など。
水は、私の場合、500ミリリットルのペットボトル1本、350ミリリットル1本を準備し、あとは自動販売機で調達。コンビニなどにも立ち寄れるのが、マラソンなどと違うところ
⑤自己コントロール
歩道を横並びで歩く、信号無視をする、夜間に大きな声でしゃべるなどマナー違反は厳禁。100キロは無理をしないと歩けないが、救急車を呼ぶような事態にならないためにも、限界を超えたと判断したらリタイアする潔さと勇気が必要
コースのチェックポイントは3カ所
このコースで最も気持ちよく歩けるのは湘南海岸沿いだ。小田原からしばらく東海道を進み、茅ケ崎に入って砂浜沿いを行く。太平洋を右手に、波や風の音に背中を押されて歩みを進めると、遠く見えた江の島が次第に大きくなり、背中の富士山が遠のいていく。
スタートから34キロ地点、江の島を前にした片瀬橋のたもとに最初のチェックポイント(CP)がある。関門時刻は午後6時50分だ。
コースは内陸へ。日が沈み、緩急ある上り傾斜がしばらく続くこのあたりから、体力的にも、精神的にも厳しさを感じ始めるはずだ。
「歩ききるか、リタイアするか」。53キロ地点の第2CPが多くの人にとって山場になりそうだ。関門時刻は深夜にさしかかろうとする午後11時55分。足などの痛みに加え、睡魔との戦いも始まる。ここを乗り越えることを一つの目標に事前準備することが大事だ。
夜の都会を進み、多摩川沿いを歩いている頃、多くの人は2日の朝を迎える。国道15号をひたすら進むと、第3CPに着く。86キロ地点。関門時刻は午前8時半。ゴールまで、もう一息だ。
コース上には、およそ15キロ間隔でエイドステーション(AS)とCPが3カ所ずつ交互に配置されている。リタイアする場合は、基本的にどちらかで申し出る。誘導員も60カ所にいる。
「みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう」。恩田陸さんの小説「夜のピクニック」では、高校生たちが80キロを24時間で歩く学校行事の中で、大きな心の糧を得た。100キロに挑戦することもまた、日常では体験できない何かをつかみ取ることになるかもしれない。