今年も、各地で新入社員が新たな一歩を踏み出した。 パン屋「ハートブレッドアンティーク」を全国展開する名古屋市の会社では、4月1日に開いた入社式で、創業社長が自ら焼いた「テーブルロール」を新入社員の全員に贈った。 シンプルなパンにこめた思いとは――。 社長自らキッチンに 1日午前5時。 名古屋・栄の「オールハーツ・カンパニー」本社に併設する店のキッチンに、コック服姿の田島慎也社長(37)が立つ。 小麦粉をふるいにかけるところからパンづくりが始まる。生地の重さを量りながら分割し、一つひとつ手で丸めて鉄板に並べ、オーブンで焼く。 その数、およそ400個。 「入社した社員は店に出て1日何百、何千のパンをつくるが、お客さんにとってはたった1個のパン。一つひとつ完璧な製品を出しきる意識を持てるかどうかで、店の売り上げも、本人の技術も変わる」 朝礼がある午前9時の直前まで、黙々と作業を続けた。 全国に100店超 田島社長は高校2年生のとき、「クリエーティブな仕事がしたい」とパン屋を志した。 大阪の専門学校でパンづくりを学び、20歳だった2002年、地元の愛知県東浦町に妻と2人で1号店を出した。 「マジカルチョコリング」のヒットで急成長。現在はケーキ屋「ピネード」などもあわせて全国に100店超を出す。 会社の18年7月期の売上高は74億円だ。 テーブルロールは「基礎」 テーブルロールは、パン職人の「基礎中の基礎」。田島社長は専門学校に入学して3カ月、それだけをつくり続けた。 この春、創業以来で最も多い75人の新入社員を迎えることになり、思い入れの深いテーブルロールを贈ることにした。 午前9時半から始まった入社式。 田島社長はスーツ姿の新入社員を前に「すばやく丁寧に、一つひとつの工程を完璧にこなすことが大事だ」と説いた。 「僕もテーブルロールづくりに集中しすぎて、いっしょに働いている人とは私語もしなかった。本気で最高の商品とサービスを提供することに集中してほしい」 新入社員に手渡し その後、新入社員一人ずつに「おめでとう」「よろしくね」と声をかけ、5個ずつラッピングされたテーブルロールを手渡した。 新入社員の小林弘乃さん(20)は「社長からの期待を感じ、気持ちに応えたいと思った。基礎が大事だという熱意が伝わりました」。 日向瑠衣さん(22)は「仕事に集中して向き合うことの大切さを感じました」と話した。 基礎を学ぶ意味 田島社長はテーブルロールをつくり続けた原点の日々を、「当時は『なぜ基礎ばかり。ほかのパンをつくりたい』とイヤだった」と振り返る。 「だが、いま思うと基礎をしっかり学ぶ意味は大きい。そのことを新入社員に伝えたかった」 入社式の会場に、焼きたてパンの香りがかすかにただよっていた。(竹山栄太郎) |
伝えたい「基礎学ぶ意味」 社長が渡したテーブルロール
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