看護師が患者宅を巡回する訪問看護の事業所が増えている。東北の医師不足は深刻で、病床数も減少するなか、在宅医療の担い手として期待が高まっている。一方で、訪問看護師自体の数は少なく、事業所では人材の確保に苦戦している。
近所の看護師が運営 オランダで支持される在宅ケアとは
人口約5千人、高齢化率40%超の岩手県住田町。その中心部に4月1日、民間の訪問看護ステーション「すみちゃん」が開所した。看護師は4人。定期的に患者の元に訪問し、医療支援やリハビリなどを行う。医療機関や福祉施設とも連携し、入院が必要かどうかなどアドバイスもする。
24時間体制でトラブルに対応する。車で町内を回るが、山間部に住む利用者も少なくない。所長でがん専門看護師の高橋利果さん(41)は「病気を持っている人の生活を守る仕組みがこれからもっと必要になっていく」と話す。
かつて町中心部にあった県立病院は2009年に入院機能のない地域診療センターとなった。日中は隣接する大船渡市から医師が来て診療するが、夕方から明朝にかけて町内には医師がいなくなる。
「何かあったときにすぐ医者に診てもらえない不安感が住民にはある」と町保健福祉課の担当者。入院や手術が必要な場合は車で30分ほどかけて大船渡市の病院へ行く必要があるが、バスは1~2時間に1本のうえ、自分で車を運転できない高齢者も多い。
東北の医師不足は深刻だ。厚生労働省がまとめた「医師偏在指標」では、宮城県を除く5県は下位16県の「医師少数県」。医師数の将来推計によると、確保が進んだ場合でも福島、岩手、青森、秋田の4県で計1921人が不足するとされる。地域医療を支える公立病院も規模を縮小する動きが続く。厚労省は膨らみ続ける社会保障費を削減するため、入院ベッド数を減らし在宅医療を推進している。
こうした中、広がりを見せているのが訪問看護だ。全国訪問看護事業協会によると、18年の東北6県の訪問看護ステーションは計600カ所と5年間で1・3倍に増えた。
ただ、厚労省によると、16年末時点で訪問看護ステーションで勤務しているのは看護師全体のわずか約4%。一定程度の経験が必要とされる訪問看護では、人材不足に悩む事業所もある。
「訪問看護がどういうものか、看護師の間でもあまり知られていない」。秋田県看護協会訪問看護部の菊地富貴子部長はこう話す。協会が運営する男鹿市の「訪問看護ステーションおが」は、昨年7月に常勤の看護師が2人に減り拠点機能を担えなくなった。秋田市からの応援職員でカバーしているが、募集をかけても応募がないという。
秋田県によると、県内の訪問看護師は17年4月時点で313人。22年の必要人員は451人と推計されているが、県医療人材対策室は「右肩上がりのニーズに対応できておらず、テコ入れが必要だ」と話す。病院の看護師と訪問看護師の共同研修や、訪問看護師の養成講習会などに力を入れ、対策をはかるという。
また、訪問看護で可能な医療行為は限定的で病院の「代替」にはならない。すみちゃんを運営する一般社団法人「未来かなえ機構」代表理事で医師の滝田有さん(58)は「ICT(情報通信技術)などを使い、医療、福祉、介護が連携できる新しい仕組みが求められている。医師の意識改革も必要だ」と指摘する。(加茂謙吾)