高校野球の春季三重県大会は21日、準決勝2試合が県営松阪球場であり、今春の選抜大会に出場した津田学園が2―1で津商を下し、決勝に駒を進めた。
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この日、まっさらなマウンドに立ったのは津田学園のエース前佑囲斗(ゆいと、3年)ではなく、背番号10の降井隼斗(3年)だった。「緊張していた」と振り返る。同時に、こうも思っていた。「やってやろう」。二つの感情に揺れながら投げる右腕は立ち上がり、制球に苦しんだ。
一回は2死満塁のピンチを招き、二回も走者を2人背負う。なんとか無失点でベンチに戻ると、佐川竜朗監督が「グータッチ」で待っていた。控えめに右拳を出して応じる。すると、そこから、持ち味という力強い投球が光り出した。三回以降は強気に攻めて、四球も与えない。六回までスコアボードに「0」を並べた。七回、1点を失って1点差に詰め寄られながらも乗り切ると、再びグータッチ。これには、ねぎらいの意味が込められていた。
八回から救援した左腕の栄龍騰(りゅうと、2年)は、驚いた。三者凡退に仕留めて差し出された拳に、「監督がグータッチなんて、めったにやらない。珍しい」。思わず、グラブで応じてしまった。それでも、監督の粋なはからいはしっかり受け取った。九回を完璧に抑えて、リードを守り切った。
佐川監督がグータッチの意図を明かす。「気持ちを高めるためです。普段の練習は細かいし、厳しいけど、公式戦では笑顔で迎えて伸び伸びやらせたい」
津田学園の前は選抜1回戦の龍谷大平安(京都)戦で延長十回まで零封。十一回に2点を失って敗れたが、力のある直球と抜群の制球力を示した。今夏のU18(18歳以下)ワールドカップに出場する高校日本代表の第1次候補選手にも選ばれた絶対的エースだ。
この前に続く投手の育成が津田学園の課題だが、経験の少ない2投手に準決勝を任せるためのマネジメントが実を結び、前の温存に成功しながら決勝進出を決めた。栄の言葉には、自信がにじむ。「次は『栄を先発で』と言ってもらえるようになりたい」。2度目の夏の甲子園を見据える津田学園にとって、大きな1勝になりそうだ。(小俣勇貴)