4月中旬、散り始めた桜が舞う智弁和歌山のグラウンド。中軸を打つ捕手の東妻(あづま)純平(3年)は、公式戦で使う金属バットには目もくれず、木製のバットを振り続けていた。「前は金属も使っていましたけど、今はこればっかりで打っています」
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そうさせたのは、5日から3日間参加した高校日本代表の「国際大会対策研修合宿」だった。8月30日に韓国・機張(キジャン)で開幕する野球のU18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)に向け、第1次候補選手37人のうち31人が集まり、国際試合に必要な知識や技術を学んだ。日本は過去に5度、世界選手権、W杯に挑み、最高成績は準優勝。悲願の世界一のため、日本高校野球連盟がこの時期に初めて試みた合宿だった。
初日の講義。選手たちに響いたのは、過去2大会で代表を率いた大阪桐蔭・西谷浩一監督の言葉だった。
「今日からは胸の中に、世界一になるということをもってもらいたい」
これまでの日本の課題も教わった。木製バットへの対応、短期間でのチーム作り、国際ルールへの対応、海外の環境への適応――。例年、合宿は大会直前だけだった。それでは準備が間に合わない。「これからの練習のやり方も変わると思うし、春のうちにやらなきゃいけないことが分かったのはめちゃくちゃ大きい」と東妻。国際大会への“意識付け”が進んだ選手間には、「日本一の先に世界一」という合言葉が生まれた。
2日目以降は、実技が中心に。直球が高校生史上最速の163キロを計測した岩手・大船渡の佐々木朗希(3年)や石川・星稜の奥川恭伸(3年)をはじめ、プロ注目の投手が勢ぞろい。その中で東妻は苦戦した。4季連続で甲子園を戦った経験があっても、彼らの球をうまく捕球できずに悩んだ。「自分の実力がまだまだ足りないと思い知らされました」
永田裕治代表監督は強調してきた。「この合宿はセレクションではない。ここで学んだことをチームや各都道府県に持って帰って切磋琢磨(せっさたくま)してほしい」。沖縄・興南の左腕、宮城大弥(ひろや)(3年)はその意味を理解していた。「沖縄だけじゃ感じられないレベルの高さだった。チームのレベルアップにつなげたい」。東妻は合宿後、智弁の仲間に正直に伝えた。「智弁で主力の自分でも、全然通用しなかった。今のままなら日本一にはなれないよ」
世界のレベルを知り、全国各地に戻って還元することで、高校野球全体のレベルを引き上げる。こんな狙いもあったから、合宿を大会直前の8月だけではなく、4月に新設した。今春、初めてまかれた種。この夏、花は咲くだろうか。(小俣勇貴)